豊臣秀吉と弟・秀長が戦国の乱世を切り拓いていく姿を描いた大河ドラマ『豊臣兄弟!』。戦国時代といえば、全国の大名が領土拡大や天下統一を目指して戦いを繰り広げた時代だが、実際の戦場はどのようなものだったのだろうか――。

 ここでは、歴史学者・本郷和人氏が戦国時代の「戦場のリアル」を解説した『軍事の日本史[新装版] お金・戦略・武力のリアル』(朝日新書)より、一部を抜粋して紹介する。(全2回の1回目/2回目に続く)

写真はイメージ ©beauty_box/イメージマート

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軍事の展開には経済が重要

 日本の軍事研究で、兵站の問題は常にネックになってくるものだと思います。ともかく戦争をやるには莫大(ばくだい)なお金がかかる。軍事を展開する大前提として、「兵隊さんをどうやって食べさせるか」ということがあります。

 兵士を戦場に連れていくと言ったところで、ゲームの中の兵士ではありません。生身の人間なのですから、ご飯も食べるし、トイレにも行く。糞尿をおろそかにしていると、すぐに病気が拡がります。

 そういうことを一々考えなくちゃいけない。その人たちをしっかり食べさせ、活動させるためには、当然、国内の経済をがっちり固めなければいけないという発想が生まれるはずです。

1万人の兵士を連れて行ったら食費はいくらかかる?

 では、具体的にその計算をしてみましょう。戦国時代の兵隊さんの食事を取り上げてみます。1万人の軍隊を編制して戦争しようという場合、「ひとり1日3合」のお米を食べるとします。だいたい兵隊さんというのは、おかずがなくて主食ばっかり食べていたんです。

 ちなみに、おかずはどうしたかというと、味噌を塗り込んだ縄を腰に巻いていったという話があります。その縄を刀で切って、鍋にぶち込んで味噌汁を作って飲んだというのです。本当にそうしたかは不明ですが。 

 とにかく、ひとり1日3合のお米を1万人が食べるとすると、1日で3万合の米がいる。単位を換算すると、1合(約150グラム)の10倍が1升、1升の10倍が1斗、1斗の10倍が1石ですから、3万合は30石になります。お米1俵が60キロ(4斗)。

 2俵半は10斗だから1石。つまり150キロになります。それが30石になれば4500キロ。今の相場で、お米1キロがだいたい855円だとすると、4500キロなら総計約385万円!

 だから1万人の兵を動かすと、食費だけで1日で385万円かかる計算になります。しかも戦争は1日で終わらないから、仮に1カ月かかったとしましょう。すると、30日で兵糧代に1億1500万円かかるんですね。

 そのほかに、馬が必要ですね。武器も必要ですね。いろいろな諸雑費を含めると、1万の兵を1カ月動かすのに、今のお金に換算して1億円以上。戦の期間や規模によっては2億、3億に膨らむことだって考えられます。そんなに経費がかかるものとなればそう簡単には戦争なんかできないぞ、ということがおのずと導き出されてきます。

 戦争はなにしろ兵隊さんをまず食べさせなければいけない。そして、戦争をするための準備を整えなきゃいけない。何はさておき、莫大なお金がかかるわけです。経済が重要だという発想が根底にあります。