全国的に猛暑が続いている。ニュースでは連日「ためらわず冷房を使いましょう」と呼びかけられ、熱中症の危険性と対策の周知徹底が図られている。
このような状況にあっても、まだ「昔は冷房など使わなかった」「昔は熱中症なんてなかった」などという意見がそこかしこで見受けられる。ヒートアイランド現象の影響などにより都市部を中心に年間平均気温は上がってきており、こうした「昔は根性があった、今の人は弱い」という精神論めいた意見には「今の暑さは昔とは違う」と反論することができよう。ただ、そこでふと思う。果たして昔は本当に「暑くなかった」のだろうか。
熱中症による死亡率はいまと同じ!?
首都大学東京特任教授・藤部文昭の論文「暑熱(熱中症)による国内死者数と夏季気温の長期変動」(日本気象学会機関誌『天気』60巻5号・2013年)によると、暑熱(気温が高いこと)による死者数は戦前から戦争直後まで年200~300人程度いたということである。人口の増加や、熱中症で命を落とす確率が高い高齢者の割合が増えたという要素を合わせて考えると、暑熱による死亡率は戦前と現在とでは同程度だというのだ。
要するに昔だってすごく暑い日はあったのであり、熱中症による死者も少なからずいたのだ。東京における猛暑日(日最高気温35℃以上)の日数は現在の方がむろん多くなってはいる。しかし一方で1942(昭和17)年の東京で、猛暑日が7日もあった記録が残っているのである(東京管区気象台ホームページより。以下に引用する東京の猛暑日・真夏日のデータも同様)。
手がかりとして文豪たちの日記を読んでみた
昔の人たちはそんな猛暑をどのようにやり過ごしていたのか。ひとつの手がかりとして、文豪たちの日記を紐解いてみたい。日記にはある程度彼らの本音があらわれているだろうし、何よりその日の気温が併記されていることが多いからだ。
ちなみに「昔は冷房など使わなかった」という意見には、谷崎潤一郎の1958(昭和33)年8月18日の日記「極めて暑き日なり 発車後直ちに食堂車に入り冷房に浴し四時頃まで物を食べてゐる」(『谷崎潤一郎全集 第26巻』中央公論社)という一文を返しておきたい。戦前の日本には既に冷房装置や冷房車が登場し、人々の人気を博していた。一般家庭への冷房の普及はまだまだだったとしても、冷房の恩恵に与れる時にはみんな最大限に利用していたのだ。我々も昔の人に倣って冷房を使うべきである。