会社員のかたわら大好きな蝶の生態を探るため、世界の未踏の地を訪れてフィールドワークを行った破天荒な研究者・五十嵐邁(いがらしすぐる)氏は、数々の危険な目に遭遇してもなお、探検を続けた。インドネシアで搭乗した飛行機が墜落、筆者と日本から同行した広瀬盛衛氏の運命は……。『アゲハ蝶の白地図』(ヤマケイ文庫)より一部を抜粋して紹介する。(全2回の2回目/前編から続く)
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操縦席の小窓から脱出
すでに機外にいた広瀬さんは、脱出直後に機の右側エンジンが大爆発を起こし、中天高く大きな物体が舞い上がるのを目撃した。そして流れ出た燃料に引火して、右側は完全に火と黒煙に包まれてしまった。私が非常口を見落としたのは、外部が黒煙でおおわれて暗かったため、無意識に明るくて安全そうな左側にのみ注意を払ったためであろう。私は前方の扉を開いて操縦席へ入った。左側の三角形の小窓が開いている。そこから上半身をのり出して、カメラの入っているボストンバッグを落とした。窓の高さは地上約2.5メートルある。カメラを損なわぬよう、なるべく低くまで身をのり出して手を離した。次は自分の番である。そのまま水泳のダイビングよろしく飛び下りようとしたが、あまりにも高い。いったん頭を引っこめて、スタイルはよくないが足から這い出した。そして窓にぶら下がった。この時、私は心の中で(もう大丈夫だ、助かった!)と思って手を離した。地に足が着いた。
10メートルばかり歩いたら広瀬さんが駆けよってきて手を握った。
「よかった、よかった。君の姿がどうしても見えないので、どうなったのかと思って心配してたよ。」
「すみません、荷物を出すのに手間どっちゃってね。」
そう言いながら私はバッグを開いてカメラを取り出した。もう真っ赤な炎が炎々と空高く立ち昇っている。シャッターを切ってから機体をよく見ると左の翼がつけ根からない。ゾッとしてあたりをみまわすと50メートルくらい彼方で炎をあげて燃えている。右の翼は墜落と同時にもげたようだが、爆発で原形をとどめない。よく胴体だけでここまで滑ってこられたものだ。
