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「さよなら、おっさん。」の前に。日本の男たちよ、まずは“若者”から抜け出そう

速水健朗×おぐらりゅうじ すべてのニュースは賞味期限切れである

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バンドTシャツと「女の価値はバッグで決まる」の炎上

おぐら そんな中、今年の夏は、〈自分らしく、自由に、自立して生きる女性たちへ。〉を掲げるOTONA SALONEの「40代が似合わないTシャツはコレ!」というネットの記事が炎上してました。

速水 この炎上おもしろかったよね。「おっさん」でなくて、女性の話だけど。

おぐら とくにバンドTシャツに対して、〈精神的に大人になり切れていないのかな、常識がなくて変わった人なのかな、と思われたくなければ、部屋着やパジャマにするのもやめて、こっそり思い出とともにしまうか、断捨離リストへ入れてください〉と書いてあるのが神経を逆撫でしましたね。

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速水 火をつけた側は「そんなの自由だろ」って反発してた。この炎上で比較すべきは、春頃に炎上した「女の価値はバッグで決まる」でしょ。

おぐら 「個人的にはセリーヌ以上を希望」のツイートですね。

速水 あっちは30代になってミュウミュウのバッグはイタイって話だった。ミュウミュウだってかなりの高級ブランドだけど、それは20代で卒業すべきって言われていたのに、今度は40歳でバンドTって30代と40代の扱いの違いが激しい(笑)。

おぐら あれは炎上のあとに、自分の持っているヘンなバッグ自慢の大喜利になりましたけど、40代のTシャツ問題のときもバンドTのハッシュタグが盛り上がりました。

速水 バッグのときに炎上していたのは「The Startup」編集長の梅木雄平さん。元『東京カレンダー』のウェブを手がけてた。

おぐら 高級レストランで若い女性とデートするマナー的な話題のセンスがバブルっぽいっていう指摘が目立ちましたね。

速水 彼はバブル世代かと思いきや30代前半。でもさ、「LEON」「東京カレンダー」的な若い女の子の扱いに慣れた高いレストランで奢る「モテオヤジ」って再増殖していると思うよ。

©iStock.com

おぐら 30歳を過ぎて早々におじさんを引き受けた人もいる。

速水 サブカルに引きずられずに。

おぐら みうらじゅんさんは、自分が権威にならないようにサングラスをかけて長髪にしてるって言ってました。権威をアピールしてくる人は「権威濃すぎ」だって。つまり、権威で勝負するおじさんにはならない。

速水 サブカルも“おじさんになっちゃだめ”圧力の一種だ。

おぐら サブカルとは縁遠い大学時代の同級生は、普通におじさん生活を満喫しています。「今おじさんって嫌われてるよな」って言ったら「そうなの?」「誰に?」「なんで?」って返されましたから。

速水 ネットでは可視化されにくいから炎上したわけだけど、今は本当にある局面では好景気時代だし。「新興モテオヤジ層」。

おぐら 40代と比べると、むしろ30代のほうがおじさんらしくなってるってことですか。

速水 うまくオヤジ化を引き受ける選択肢を行使している30代と、引き受けきれない40代の差が出ているのかも。まさにTOKIO、V6とSMAP問題。

おぐら いろいろな意味で大人になりきれない40代。

速水 夏休みに千葉の房総へドライブに行って、ドラマの『ビーチボーイズ』で使われた民宿ダイヤモンドヘッドのロケ地探訪してきたんだけどさ、同年代のおじさんが男2人で来てたりしてるんだよ。

おぐら いまも「俺の海」を探してる!

速水 少年で居続けるってことでしょ。まあ、そう言ってる俺がまさにそうなんだけど(苦笑)。でも人が大人にならない時代がいつ始まったかって、それは大体50年くらい前だよね。

おぐら ヒッピーとかカウンターカルチャーが出てきた頃?

速水 60年代ってひとことで言うと、大人はオワコンって言われ始めた時代でしょ。

おぐら 「ドント・トラスト・オーバー・サーティー」ですね。

速水 そう、おじさんは信じるなってこと。新しい価値観に裏付けされた世代が出てきて世界は変わるって。ニューエイジ文化って呼ばれるけど、ロックもパソコンもその頃に生まれているしね。

NewsPicksが訴えているのは、ニューエイジの思想

おぐら NewsPicksの「さよなら、おっさん。」の広告にも、締めに〈自分、もう「おっさん」ですけど。そう思った方も、ご安心を。人は、情報でいくらでも若返ることができる生き物、ですから。〉と書いてありましたね。

速水 若者肯定って、ニューエイジ思想の基本というか。高城剛がずっと半ズボンなのは、まさにそれでしょ。人は革新によって人間を克服できるって。もうずっと50年言われ続けている。

おぐら NewsPicksのピッカーたちの顔ぶれを見ると、堀江貴文も落合陽一も、たしかに西海岸カルチャーの影響が強そうですね。そして、大人というより、ティーンエイジャーっぽい。

速水 テクノロジー関連の人たちのTシャツ率の高さも含めて、反おじさん思想だよね。そういう意味ではSMAP寄りとも言えるけど。お互いがんばっておじさんになろうよ!

おぐら Tシャツのサイズ感を気にするのは平成最後の夏で終わりだ!

©iStock.com

写真=佐藤亘/文藝春秋

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