いずれにせよ、エプスタインは「1953信託」にサバイバー(※)への補償金支払いを一切、記していない。

※サバイバー:エプスタインによる虐待の被害を受けた元少女たちは、成人した今、自らを「犠牲者」とは呼ばず、「サバイバー(生き残った者)」と呼び、この問題について声を上げている。

 前述のエプスタインの個人弁護士と会計士はエプスタインの死後に賠償基金を設立し、サバイバーたちに計1億2100万ドルを支払っている。

遺産を相続させようとしていた意外な相手は…

 エプスタインが自らの死の直前である2019年8月に「1953信託」を作成するまでは、逮捕半年前の同年1月に作成した「2019信託」が有効だった。そこで最大の遺産相続人となっていたのはセリーナ・デュビン。かつてエプスタインの恋人だったエヴァ・アンダーソン(現エヴァ・デュビン医師)の娘だ。

ADVERTISEMENT

 エヴァはエプスタインと別れた後、ヘッジファンド界の億万長者グレン・デュビンと結婚し、3人の子供をもうけている。その中の一人がセリーナだ。エヴァはエプスタインと別れて結婚した後もエプスタインと親しく付き合い、エプスタインから勤務先の病院への多額の寄付を受け取ることもしている。また、セリーナもエプスタインを「おじさん」と呼んで慕い、エプスタインはセリーナを実の姪っ子であるかのように可愛がっていたことが、エプスタイン・ファイルからうかがえる。

 後にセリーナはハーバード大学に進んで医師となり、現在は母親と同じマウント・サイナイ病院に勤務している。

なぜ「元恋人の娘」が最大相続人だったのか

 セリーナの名は新たな「1953信託」にはないが、セリーナと母親のエヴァは、セリーナが最初の信託の最大相続人であったことは知らされていなかったし、今後、どんな経緯となろうともエプスタインの遺産は一切受け取らないとしている。

 父親が億万長者、母親も自身も医師であるセリーナはエプスタインの遺産を必要としないだろう。しかし最初の信託では最大相続人、書き直した信託からは抹消されていたことをどう感じただろうか。

 母親のエヴァは、エプスタインが自分と付き合っていた時期に他の女性と浮気していたことを知っていたと思われる。その後、夫との間に生まれた娘が10代となった時、出所後のエプスタインと親族のように付き合わせた理由はなんだったのだろうか。医師となった後、エプスタインに依頼されてエプスタインの「女の子たち」の診療手配を引き受けたのはなぜだろうか。