「小便を凍らせて食べるんだろ」

『エイン』の主人公は家族でミャンマーから移ってきて1年になる男子高校生。クラスメートや近隣の人々の好奇の眼、無意識な偏見に反発を隠し切れない。日本に馴染もうとする両親や無邪気な弟にも苛立ちを感じてしまう。『エイン』には、日本社会の中で「外国人」として生きる子供たちの、言葉にならない葛藤がリアリティを持って描かれているが、劇中のエピソードの多くは、彼が実際に体験したことだという。

『エイン』

「主人公の弟役のキャラクターは、僕自身の幼少期に近いですね。例えば、劇中に『ミャンマー人は小便を凍らせて食べるんだろ』という非常にインパクトのあるセリフがありますが、あれは僕が小学生の頃に実際に言われた言葉なんです。子供心に衝撃を受け、ずっと心に残っていました。また、男の子たちが乱暴にいじめてくる一方で、女の子たちが優しく受け入れてくれたという記憶も、作品に反映されています」

『エイン』

 近所の婦人が「親切のつもりで」古着を大量に持ってくるシーンなど、悪気はなくとも、受け取る側にとっては「差別」や「疎外感」として突き刺さる瞬間が描かれており、20年前の作品でありながら現在の日本社会にも通じるものが感じられる。

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仲間たちと作り上げた渾身の自主制作『めぐる』

 同時に公開される『めぐる』は、2017年に撮影された。大学卒業後、一度は会社員として働いたティンダン監督は、映画への情熱を捨てきれなかった。

「『めぐる』は、ほぼ自費で制作した作品です。予算もほとんどない中、当時出たばかりのパナソニックのDMC-GH4というデジタル一眼レフカメラを使い、日本映画学校時代の同期たちを集めて撮影しました。編集の辻田恵美さん(のちに『シン・エヴァンゲリオン劇場版』など)や、照明、撮影のスタッフなど、今では第一線で活躍している同期たちが、仕事の合間を縫ってボランティアに近い形で協力してくれました」

『めぐる』生越千晴

 脚本は、やはり日本映画学校時代の同期である山﨑佐保子氏(のちに『愛に乱暴』など)が執筆。就職の面接に急ぎ、発車間際の電車に駆け込み乗車をした女性の行動が、波紋のように様々な人生にさざ波を起こしていく。複雑に入り組んだ構成と、登場人物たちの生々しい感情の揺れ動きが特徴的な作品だ。