――5月に本を出された後、北朝鮮は名指しで批判をしました。また、7月末には国家安保戦略研究院を退職されたことを、「(太永浩は)北朝鮮の強硬措置により追い出された」とし、「それでも反北の謀略活動を続けている」と批判しました。
「こうした批判は、
研究院を退職することはずいぶん前から考えていたことで、それはやはりこうした活動を広く進めていきたかったからにほかなりません。
現在、ブログや国民統一放送での講演などのほかには、統一を担う世代となる南北の大学生を集めてアカデミーを開校しています。統一のためには、まず互いの国をよく知ることがなにより大事ですから、統一のための人材育成の一環です。
YouTubeでも放送を始める予定で、準備を進めているところです」
――北朝鮮は核を手放すことはないと『文藝春秋』(2018年7月号)のインタビューでもおっしゃっています。膠着している米朝交渉をどう見ていますか。
「そもそも、シンガポールでの米朝首脳会談では、非核化についての過程と方式の認識に齟齬がありました。
米国は、まず非核化、次いで信頼構築、制裁解除を順序としていて、方式はCVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)としていますが、北朝鮮の順序は先に信頼構築をした後、非核化に進み、その方式も自発的なものとしています。シンガポールでの米朝宣言では、米国は非核化を焦点にして語ったつもりが、北朝鮮では信頼構築の上での非核化とそれぞれ意味するところが異なっているのです。
北朝鮮は、米朝首脳会談後の7月初め、朝鮮労働党の幹部を集めて『核は先代首領が残してくれた高貴な遺産であり、われわれには核がなければそれは死だ』という講演を行っています。米朝首脳会談後、金正恩がとったミサイル試験場の解体や米兵の遺骨送還などはただのパフォーマンスで、非核化とはほど遠いものばかりです。その意志がないということにほかなりません」
――9月には今年3回目となる南北会談が開かれる予定です。何が焦点となるのでしょうか。
「文大統領としても非核化が進まなければ、北朝鮮が言う『終戦宣言』にこぎ着けることは難しくなります。
まず、北朝鮮の非核化のスケジュールが明らかにならなければいけません。スケジュールがでれば、朝鮮半島の平和と非核化も進展し、制裁も解除されるという、非核化の順序を正しく認識するところから始めるべきでしょう。
ですから、9月の南北会談では、終戦宣言の採択と北朝鮮の非核化のスケジュールの設定、核施設リストの作成を同じ“籠”にいれて話し合いを進めるべきです。
3回も南北が会談を持ちながらも非核化への明らかなロードマップが出てこなければ、米国、ひいては国際社会の北朝鮮への猜疑心は再び膨らんで、北朝鮮への制裁は解除されず、同じことが繰り返されることになります」
太氏のインタビューは、ソウル市内のある一室で行われ、その狭い部屋には警護員が同席した。教室でいえばすぐ後ろの席にいるような距離感に座っていて、時々、彼らのひそひそとした声が耳に届いた。
いつになれば、太氏にそんな警護のつかない日が来るのだろうか。