日本では毎年、約8万人が“行方不明者”として届け出られる。その多くはやがて帰宅するが、数千人は完全に姿を消してしまう。「蒸発者」と呼ばれる彼らは、それまでの生活をすべて捨て、ひと知れず新しい人生を始める。
すべてを捨てた後、彼らは何を考え、どう生きるのか。3月14日公開の映画『蒸発』は、姿を消した蒸発者たち本人に取材を重ねた、衝撃のドキュメンタリーだ。
日本独自の「蒸発」に注目
本作は、ドイツ人のアンドレアス・ハートマンと、日本人の森あらたによる共同監督作品。蒸発者に焦点を当てるというアイディアは、ハートマン監督による発案だったという。
「きっかけは2014年の日本滞在でした。当時、京都で若いホームレスの男性を追ったドキュメンタリーを撮影していたのですが、リサーチを進めるうちに、日本独自の蒸発という現象を知ったのです。
たとえば、大阪の釜ヶ崎(西成区北部)には匿名や偽名で生活する人々が数多く存在し、さらには失踪を手助けする『夜逃げ屋』という職業まである。こうした事実に強い衝撃を受け、このテーマで作品を撮ろうと決意しました」
ハートマン監督は、ベルリン在住の森監督に相談を持ちかける。カメラ撮影に徹するハートマン監督のかわりに、森監督は出演者との交渉を担う。日本人監督という心強いパートナーを得て、プロジェクトは本格的に始動した。だが、撮影は苦難の連続だったという。
「撮影の途中で作品作りを諦めかけたことは何度もあります。何しろ、社会から離れ、誰も知らない土地で身を隠して暮らす人々を探し出し、さらにカメラで密着する必要があったからです」(森監督)
蒸発者たちの事情はさまざまだが、共通しているのは「過去を捨て、素性を隠して生きている」という点だ。そんな彼らにカメラを向け、ドキュメンタリー映画として世界に向けて発表する。一筋縄で行く取材ではなかった。

