作家・エッセイストとして活動する岸田奈美さん。車椅子の母、ダウン症の弟、そして亡き父との日常生活を、ユーモアたっぷりに描いたエッセイが人気を集めています。
知的障害があり、幼い頃から「字を書くのは難しい」とされてきた弟の良太さん。しかしある日、自宅で発見された“怪文書”が、家族のこれまでの常識を塗り替えることに——。3月6日に文庫化されたエッセイ集『傘のさし方がわからない』(小学館)より、一部を抜粋して紹介します。(全2回の1回目/つづきを読む)
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メモ用紙に残された、なぞの言葉
ダウン症の弟は、字が書けない。
はずだった。
今朝、母が、小さくちぎられた海苔がべたべたとはられたいびつな丸いおにぎりと、そこにそえられたメモ用紙を発見するまでは。
メモ用紙には、なぞの言葉が残されていた。怪文書やないか。
おにぎりと怪文書。あまり聞いたことがない組み合わせだからか、めちゃくちゃ不穏な響きがする。そんなコンビが存在するのはうちの家くらいだ。
怪文書から、かろうじて読める言葉を探す。
「ママ ひろみ ポール ごはん ます」
ひろみは母の名前だ。つまりこれはたぶん、母に宛てられたものと思われる。うちにポールはいないはずだ。……いたかなあ、ポール。脳裏にマッカートニーが浮かぶ。おらん。
十数分にわたる解読の結果、これは最近仕事が忙しくて朝ごはんを食べていない母を心配して「ボールみたいなごはん」をつくったから食べなさい、という弟の粋なアレだった。
事情を知った母は爆泣きした。爆泣きしている母をジト目で見ながら「これ、オカンが自分でつくって書いたんちゃうの」とわたしがいったら、強めにしかられた。
本当に、弟の粋なアレだったのだ。おまえ、そんなことできたんか。いつの間に字なんて書けるようになったんや。姉は、弟の成長におどろいた。
しかし弟の真意を知ったのは、もう少しあとになってからだ。
またもや現れた“怪文書”
翌日、第2の怪文書があらわれた。今度はおにぎりはなく、机の上に手紙だけ。怪文書、このペースで出てくるんだ。名探偵の家系かな。発見者の母の招集により、岸田家解読班が結成され、またもや解読にとりかかる。
「ゲーム ドラえもん のび太のひみつ道具博物館 SD3 11月5火 生 日 ゼード ミユーシアム」
3DS(ゲーム機名)がひっくりかえってSD3になっていたけど、すぐにわかった。ゲームソフトだ。そのあとの「火生日ゼード」というのが、わからない。
「11月5日って、良太の誕生日やんな......」
母がつぶやいて、わたしがひらめく。
「これ、『火生日』って、誕生日って書きたかったんちゃうの?」
