日本の葬儀儀礼において「戻る」がよくない理由

――それはどうしてでしょうか。

下駄 まず「お骨の取り違え」という重大事故につながるリスクがあるからです。多くの火葬場では、ご遺体と炉の番号を結びつけて運用しているんですね。火葬もお骨上げも、すべてその番号で紐づけて管理しています。

 そのため、途中で炉を替えてしまうと、その運用がくずれてしまうんです。たとえば2番から3番に移し替えたのに、お骨上げの時に間違えて3番のご遺族さんを呼んでしまったら……。

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 実際、「火葬場の運用ミスで、ご遺族に自分の家族ではない方のお骨上げを案内してしまった」という事故も起きているんですよ。

――たしかに、そのミスは避けたいですよね。他にも理由があるのでしょうか?

下駄 霊柩車はバックしてはいけない、って聞いたことないですか。日本の葬儀の儀礼として「戻る」のはよくない、とされているからです。同じ理由で、一度炉に入ったご遺体を出して、また炉の中に戻すのは、あまりよろしくないんですよね。

――なぜ「戻る」のはよくないのでしょうか?

下駄 日本の古くからの風習で、死者が戻ってくることを避けるという考え方ですね。棺に釘を打つ地域があるじゃないですか。あれには、この世に戻らずに真っすぐあの世へ行けますように、という祈りが込められている。その古い風習が、霊柩車や火葬場にも残っているんです。

 

ご遺体が生焼けの状態で失火してしまい…

――それでも移し替えざるをえなかったケースが、今回の漫画には描かれていますよね。

下駄 漫画に描いたのは、最近まさにその状況を経験した、という方から伺った話なんです。ご遺体が生焼けの状態で失火してしまい、炉をいじってもどうにもならない。予備のバーナーもなくて……。もう炉を替えるしかない、と。

――漫画には「内臓がぐつぐつの状態でご遺体を運んだ」とありました。

下駄 火葬を開始してから15分後ぐらいが、ご遺体の状態としては一番むごい時間帯なんですよね。水分の多いお腹のあたりから小腸がプルプルと出てきたり、腹水が溜まっている方だとお腹から水がピューッと出てきたりもする。生焼けの状態で炉から出すとなると、そういう状態のご遺体を動かさなければならないわけです。

 また、その状態だと見た目だけでなく匂いもすごい。肉が焼ける匂い自体は、意外と「よく知っている」ものなんですよ。