「直接ここに来てくれたら、いつでも誰でもお茶を出しますよ。話しましょう。

 わたしはそういうつもりなんですけどね。とくに誰も来ませんね。みんなちょっと弱虫だな、とは思いました(笑)」

KaoRiさん

 東京・下北沢の住宅街にあるスタジオ「ミクロコスモス舞踊研究所」で、実際においしいお茶を出してくれながら、KaoRiさんがそう話す。

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 建物の地下に広がるコンクリート打ち放しの空間は、吹き抜けで天井が高く、身を置いているだけで心地いい。ここでKaoRiさんは、下は5歳から上は70歳まで、年代やレベルを問わず多様な生徒たちにダンスを教えている。

 バレエ・レッスンを基本に置きながら、ストレッチや呼吸法にも力点を置くのが教室の特色。バレエで高いレベルを目指したいとの要望があればきっちり教えるが、まずは身体を動かすことの楽しさを伝えるのが主眼だ。

「このスタジオはお借りしているものなので、いつか本当に自分の場所を持って、ダンスを教えていくことができたらいい。

 そのためにも、ここでのレッスンは今年かぎりでいったん終了にします。自分の心境もいろいろ揺れ動いたので、ダンスの先生という立場をいちど離れたほうがいい気もして。時間をもらって改めて勉強をしてきます」

ブログに書いた、アラーキーのこと

 心境が揺れ動いた出来事とは、自身のブログに端を発する騒ぎのこと。

 4月1日、KaoRiさんはブログサービスnote上で「その知識、本当に正しいですか?」と題する文章を公開した。アラーキーこと写真家・荒木経惟の被写体を長らく務めた顛末、その途上でモデルとして尊重されぬ行為が積み重なっていたことを、赤裸々に綴った。

 性暴力被害に対して声を挙げる「#MeToo」の動きに呼応して、告白は意想外の反響を巻き起こし、大きいニュースとなった。

 

 いきなり「時の人」めいた扱いを受けることになったのだが、

「わたしは決して誰かを責めたいわけではないし、相手に対し『あなたが悪い』と追い詰めるつもりもなかった」

 とKaoRiさんは言う。

ただ、知ってもらいたかった

 著名写真家の仕事現場で、モデルに対する敬意を欠く行為、金銭が支払われないといったトラブルその他、パワハラ、セクハラの要素を多分に含む出来事が十数年にわたり繰り返されてきたことを、KaoRiさんの文章は明らかにした。その主張はインターネットを介して国内外に広がり、世界のアートシーンでも名高いアラーキー作品の評価にも、少なからぬ影響を及ぼした。

「モデルへの搾取のもと成立していたのだとすれば、もうこれまでと同じように彼の作品を観ることはできない」と。

「十数年も彼のモデルであり続けて、自分が尊重されないことがたび重なり、とにかくわたしが疲れてしまった。それで、モデルはもう続けられないと申し出たところ、誠意ある対応が皆無でした。そのことに耐えられず、これまでフタをして自分の内側に留めておいた思いを表に出したというだけです。それ以上の追及をするつもりはハナからありません。

 反響は大きかったけど、アート界、写真界の人には実状が確実に伝わったとは感じられたので、よかったかな」

 ただ、知ってもらいたかった。それで、告白をした。それに対して思うところがある人がいるなら、話しましょう。冒頭の言葉に見られるように、これが彼女の一貫したスタンスだ。