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3.11の日にも受けたストーカー被害

 じつは、スタジオを始めるに至ったのは、もっと直接的な理由もあった。

 アラーキーのモデルとしてのKaoRiは素性を一切明かさず、ミステリアスな雰囲気でつくり込まれていた。それも影響してか、

「数年来、ストーカー被害に遭っていたんです。かなり執拗で、どこへ行っても逃げ場がないような状態でした」

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 被害が数年にわたって続き、心身ともにかなり参っていたころ、あの「3.11」が起きた。当日外出していたKaoRiさんは、完全に麻痺した交通機関をあきらめて、幹線道路を延々と歩いて、なんとか帰宅した。

「家に帰ってドアを開けたとたん、唖然としました。部屋の中が、きちんと整頓されていたんです。だれかが侵入していたのは明らか。恐怖とともに、本当に全身に力が入らなくなりました。

 これはもういけない、根本から変えなければどうにもならないところまできていると痛感しました」

開き直りが、ダンスを教えるきっかけとなった

 ならばいっそ、逃げたり隠れたりするのはよしてしまおう。自分の居場所をはっきり示して、わたしはここにいる、来たければ生徒としてくればいい。そう腹をくくって、教室を始めることにした。

 
 

「そんな開き直りが、人にダンスを教えるきっかけでした。でもやってみると、ああ教えることって、こんなにわたしに合っていたのかと驚いてしまった。身体を動かすことでだれかとコミュニケーションをとって、そこにいるみんながひとつになれる場をつくるのは、本当に楽しい。それまではいつだって、ひとりでぽつんと立っているような気がしていたのに、初めて社会とちゃんとつながっている実感が持てるようになりました」

 大きなステージで踊ること、斬新な新作ダンスを発表するようなことも、もちろんすてきなことだろう。が、自分が注力するべきはそっちじゃなかったんだなと、生徒を教えながら実感する日々が続いた。

「そういう、いわゆる芸術家になりたいわけじゃないんですよね。みんなで踊って、楽しかったねと言い合える場をつくり出す。それがわたしのやっていることだし、ダンスってこういうものでもあり得るんだと、身をもって示していきたいです」