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医師や看護師、親にも言えないこと

 同病棟の泉谷(いずたに)恵子さん(師長)も、病棟専従の保育士は「患者さんとスタッフ間のコミュニケーションになくてはならない存在」だと語る。「(AYA世代専用病棟の)立ち上げから一緒にスタッフに入っている保育士は、一人で集中できるものから何人かで一緒に楽しめるものまで、さまざまなイベントや企画を考えて、つねに(患者の)気持ちを盛り上げてくれる。思春期や複雑な悩みを抱えているAYA世代の中には、医師や看護師、さらには親にも言えないことも保育士になら話せるという患者さんもいて、心のケアに必要な存在」と患者との信頼関係を築く一助になっていると話す。

泉谷恵子さん

いままでの病院と「雰囲気が全然違う」

 生後10カ月で脳腫瘍を患い、以来26年間病気とつきあい続けてきた尾藤(びとう)祐二さんは、それまで別の病院に通っていたが、「AYA世代専用病棟ができたので行ってみたらどうか」と主治医にすすめられて同病院に入院しているという。AYA世代専用病棟の印象について尋ねると、「雰囲気が(いままでの病院と)全然違う」と話してくれた。

 尾藤さんはこれまでは脳外科病棟に入院していた。5年に1回程度入院していたが、最近は入院となると高齢の人と同室になるケースが多く、どことなく居心地の悪さを感じていたという。周囲で看護師に話しかけるような人もいないので、自分から看護師に声をかけにくい雰囲気もあったそうだ。「AYA世代専用病棟はテレビで紹介されていたのを観て知っていた。看護師さんも同室の方も同世代が多いので、気軽に話せるようになった」と尾藤さんは笑顔を見せる。

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尾藤祐二さん

 この病棟にきて一番良かったことは? と質問すると「同じがんでもいろいろな病気があるんだと分かったこと」と尾藤さんは答えた。

「これまでの病院だと、自分の病気だけが珍しいんかなと思っていた。でもここへきて、ほかにも自分と同じように(若くして)がんになっても一生懸命がんばっている人がいるんや、と励みになりました」

 母親の弘美さんも「AYA世代専用病棟にきてから(尾藤さんが)明るくなりました」と嬉しそうだ。スタッフの寄り添いと病棟環境の改善で「決して独りじゃない」と安心できる場所をつくること。AYA世代のがん治療は、まずここからスタートする。

写真=末永裕樹/文藝春秋
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