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元「AYA世代」がん患者はどう生きるのか

大阪市立総合医療センター「AYA世代専用病棟」 #3

2018/10/12
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就職や結婚に対する不安

 AYA世代専用病棟は全国にまだ2カ所しか存在していない。そのため、注目が集まりやすく、スタッフも常にプレッシャーを感じていると、泉谷看護師長は話す。

「AYA世代のがん経験者が抱える問題は根が深い。がん経験者というだけで就職したいけれどできない人や、結婚をためらう人もいる。また、治療のために仕事をやめざるを得ないケースもある。行政には、AYA世代専用病棟への支援も期待したいですが、それ以上に退院した後に彼らが働ける場所をもっと増やしてくれたらいいと思います」

 行政上の課題は、ほかにもある。小児医療には加算がつくため、小児病棟の入院患者が増えると経営的には楽になる。しかし大阪市立総合医療センターの場合、加算対象の年齢の患者をAYA世代専用病棟にまわすことで、1年で1億円近くの減収になると見込まれている。

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泉谷恵子さん(師長)と島﨑香さん(副師長)

「うちは公立病院の使命としてやっていますが、民間の病院で経営優先に考えたら、取り組みは難しいでしょうね。各地域にAYA世代専用病棟があれば、それは望ましいことですが、現実的に広がらない原因には、こうした事情もあります」(原副院長)

 また、AYA世代のがん治療でよく話題にのぼる就学問題についても、それほど簡単な話ではないと原副院長はいう。

「院内学級のない高校生の勉強をどうするかという話はよく聞きますが、実際には職業高校に通っている生徒もいたりして、そうなると机上の勉強だけカバーしてもどうにもならないケースもある。健常者でも毎日学校に行ってやっと理解できる内容を、数日に1回ベッドで『授業』を受けるだけで理解できるとは思えず、どうしてもうわべだけの議論に聞こえてしまいます。AYA世代のがん患者に必要なのは、治療以外に社会生活全体を見つめ直していくことだと思っています」

治療と同じくらい必要なこと

 同病院の小児科では、一人ひとりに寄り添い、身体の治療だけでなく、心のケアまでしてくれる原副院長の治療によって、将来がひらけた子どもが多数いるという。治療中お世話になった医師や看護師、ソーシャルワーカーなどに影響を受け、医療従事者をめざす子どもたちが多く、実際に医師になって同病院に戻ってきた元患者もいるという。その“伝統”は当然、AYA世代専用病棟にも受け継がれている。

©iStock.com

 就職や結婚に対し不安を抱えるAYA世代がん患者は、今も同病棟に入院している。しかし「今は、病気をしたということがマイナス要素になりにくい時代」と原副院長は笑顔をみせる。

「AYA世代がん患者には、治療と同じくらい、いかにまた彼らに自信を持たせるかという視点も必要。そういう意味で、まだまだやらなければいけないことは、たくさんあります」

 大阪市立総合医療センターには、医療関係者からの問い合わせなども多く寄せられているという。今後こうした取り組みが全国に広がることを、期待したい。

写真=末永裕樹/文藝春秋

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