最近、がん治療において10代後半から30代の患者を指す「AYA(あや)世代」という言葉をよく耳にするようになった。言葉が独り歩きしているのではないか――こう危惧するのは今年4月に「AYA世代専用病棟」を立ち上げた大阪市立総合医療センター(大阪市都島区)の原純一副院長だ。「AYA世代」という言葉でひとくくりにしてしまうことで本当の課題が見えなくなる恐れがあるという。AYA世代専用病棟が多くの病院に広がらない理由や、本当に必要な支援について、専門家の意見を聞いた。
◆ ◆ ◆
それぞれ抱えているバックグラウンドは実に多彩
「AYA世代のがん患者は、『生きたい』という気持ちが非常に強い。しかし、若さと多忙をエクスキューズに『まだ若いから』『まさか自分が』という過信から発見が遅れ、取り返しがつかない段階になってようやく受診するケースが多いのもAYA世代の特徴」と原純一副院長は指摘する。専門家による検診や保険への加入など、日頃から万一への備えがいかに大切かということがうかがえる。
「まず、検診からでもいいので、自分の病院や地域で何ができるかを考えて実行していく。それをしないと、中央でいくら声高に叫んだところで何も変わらないと思います」(原副院長)
この言葉は、原副院長が長年「AYA世代」の患者を診てきた実績に裏打ちされている。「ひとくくりに『AYA世代』と言っていますが、AYA世代がそれぞれ抱えているバックグラウンドは実に多彩。年齢によっても違うし、学生か社会人かでも違うのに、家庭環境や社会的背景まで考慮したら、完全に個別対応していかないと間違った方向に進んでしまう。退院した後のことも考えるなら、行政だけに頼るのではなく、退院した患者が生きていく地域で何ができるかも考えていかなければいけない」
退院して体調がよくなってきた時に自殺してしまうケースも
退院した後の人生の方が長いAYA世代のがん患者の場合、退院して体調がよくなってきた時に自殺してしまうケースも稀にあるという。
「自殺する理由は漠然とした不安や、将来に対して希望が持てないというものが多いのですが、そもそもAYA世代は健常な人であっても自殺が多い多感な世代です。闘病中は、人間は逆になんとか生きようとしますが、がん治療が一段落して退院でき、自宅に帰ったけれど仕事や学校に戻れない、どうしよう……と落ち込んだ時が一番危ないのです。だからこそ退院後のフォローもできるAYA世代専用病棟の存在は、非常に大きいと思います」
これだけ必要とされていながらもAYA世代専用病棟が広がらない原因について、原副院長は「現場がどこまでニーズを感じているかという温度差も大きい」と理由を挙げる。原副院長は小児医療センター長として長年、小児から大人になる世代の患者を診続けてきた。社会的弱者になるAYA世代の問題を切実にとらえてきた経験から、一時的措置としてもAYA世代のがん患者がAYA世代に特化した支援を受けながら、入院治療できる場所が必要だと指摘する。