日本には約1700万人、実に「7人に1人」とも言われる“境界知能(IQ70以上85未満)”の人たちが存在する。しかしこの層は、知的障害の基準には当てはまらないため支援の対象から外れやすく、その困難さは長く見過ごされてきた。
境界知能であることは、実生活でどんな困難につながるのか? ここでは24歳青年のケースを紹介する。小児科医の古荘純一氏の新刊『境界知能の人たち』(講談社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/続きを読む)
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ADHDと不安障害と境界知能
ケンタ(仮名)は24歳の青年です。現在、障害者就労で週5日勤務しています。
ADHD(注意欠如・多動症)と不安障害という診断で、8歳から継続的に医療支援を受けてきました。初診時に知能検査を受け、境界知能(IQ76)であることはわかっていましたが、境界知能は支援対象にはなっていませんでした。
就労までは、ADHDと不安障害の対応を行ってきました。ところが就労後、2つの精神疾患の症状は安定しているものの、企業内や家庭、社会生活で、さまざまな困難さが表面化してきました。家庭や学校で受けてきた配慮ができなくなったのではなく、その背景には「境界知能」があると考えられました。
ケンタの医療機関での支援状況を開始から時系列で振り返ってみます。
初診時、主訴(受診の理由)は、不注意で勉強に集中できないということでした。成育歴(それまでの発達の様子)を確認すると、歩行や自転車に乗るなどの運動発達は問題ないものの、言葉の発達や数字、文章の理解は遅めで、小学1~2年でも授業はあまり理解できていなかったそうです。
小学3年になると、以前からあった、教室内での多動・衝動性が目立つようになり、クラスメイトとのトラブルが増えました。また、勉強が苦手なこともあって授業に集中できなくなるため、近所の小児科医を受診しました。
ADHDと診断され、その治療薬の一種であるメチルフェニデート徐放剤を処方されました。衝動性は改善するも、授業に集中できず、また食欲不振、不眠の相談(内服薬の副作用)もあるため、私の外来に紹介されました。
薬の副作用を軽減するとともに、衝動性をコントロールする目的でリスペリドンという精神安定剤を夕食後に併用しました。ADHDという発達障害の診断があるため、通級指導を週1回受けることになりました。ケンタが生活する自治体では、学習に困難さがあっても、境界知能だけでは通級の対象にならないとされています。
ケンタは、他方で生真面目で神経質な性格でした。
