ある日突然「あ、これはダメだ」ってなる

――完全に進行していないからこその混乱があるんですね。

村井 個人差はあると思うんですけど、義理の母の場合は助走がすごく長くて。6年ぐらいかけて徐々に進行したんです。本人も自分の変化に気づいてて、それが怒りとして表に出るんですよ。「私はおかしくない、認知症じゃない」ってすごい言う。

 完全に認知症なんだけど「違う」って否定するから、家族も信じちゃうんです。「認知症であるわけがない」と思ってるから。私みたいに義理の家族が相手ならすぐ白黒ついちゃうんだけど、実の家族の場合、戸惑いが強くて大変ですよね。

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 それで、ある日突然「あ、これはダメだ」ってなる。義理の母の場合は寝ている義父をリモコンで叩いてしまった時が決定的でした。

――本の中にも書かれているエピソードですが、とても恐ろしかったです。

村井 もうすっごいびっくりしました。額が腫れちゃって真っ赤になってて。夜中に突然叩かれたっていうのは義父の証言なんですけど、にわかに信じられない。浮気を疑っていたみたいなんですよ。夜中に布団をぶわーってめくられることも何回かあったそうで、「女の人が中にいる」って。義父は衝撃だったでしょうね。

 ケアマネさんに報告したら「地域包括支援センターに報告します」って言われて、市の担当者が様子を見に来たりしましたよ。認知症専門病院でも「入院したほうがいい」と勧められたけど、かなりしっかり投薬するから「元のお母さんは戻ってこないと思ってください」と言われて、さすがに夫も「困る」って。

 それでその後も家にいたんですけど、お義父さんは気が気じゃなかったでしょうね。いつ襲われるかわからないので。人を叩けそうな物は全部隠しましたよ。浮気妄想とか物取られ妄想が強かったので、周囲もかなり混乱しましたね。

――「浮気してる」「物を盗られた」と妄想して、他人に攻撃的になってしまうんですよね。信頼していたはずの人も疑ってしまうって、つらいです。

村井 怖かったですよ、すごく。私が物を盗んだって、知り合いの税理士さんに電話してしまったこともありました。やることが突拍子もないですよね。税理士さんのほうも認知症って気づいてないから戸惑っちゃって。ほかにも車を盗まれたとか、お金を盗られたとか……「生命保険の証書を盗んだだろう」って繰り返し言われましたね。

※写真はイメージ ©show999/イメージマート

 ほんと人間って悲しいかな、最後に残るのはお金なんですよね。疑われるのもショックですけど、本人が正気だったら絶対嫌がるだろうなって発言がクローズアップされてしまうのは可哀想だなと思います。