1日でも早く行動しないといけない
――『全員悪人』というタイトルも、他人を疑ってしまう当事者の心理を感じさせますよね。
村井 好意をベースに近づいて来てくれる人を悪人と思ってしまう認知症の悲しさを伝えたくて、担当編集者さんとこのタイトルを考えました。ケアマネさんやヘルパーさんなどの自分を助けてくれる介護従事者を相手に怒ってしまうことも多いけど、なぜ悪人に見えてしまうんだろうっていう疑問もあって。
義理の母はヘルパーさんのことを全員、義父の浮気相手か泥棒だと思ってた。教科書に載るぐらいそれが多かったです。サメのサプリメントがなくなったとか、私の化粧品がなくなったとか、連日言われて。あれだと介護従事者の方はほんとにキツいと思います。相手は本気ですからね。
認知症の人って結構元気があるんですよ。夜も全然眠らないですから。怒りのパワーがすごくて、お正月を一緒に過ごしているときに1回激怒されたことがあるんですけど、怖くて近づけないですよ。80近い女の人だけど、本気で怒ってるから怖いんです。キッチンの包丁とか隠しましたもん。
――悪人に見えてるんですもんね……。家族も常に戸惑いの中にあると思いますが、どう対処すればいいんでしょうか。
村井 どうしたらいいんでしょうね……。1つだけ言えるのは、一刻も早く地域包括センターに行って、病院で投薬受けるなりしましょうということ。家族が認知症になったとき、「ボケちゃった」とか言ってなんとなく放置する人が多いんですよ。でも医療の介入とか、警察の介入が必要なこともあるので、1日でも早く行動しないといけない。
私は実の子どもじゃないので、正直なところ最初はちょっとワクワク感があったんですよ。これはよくないところなんですけど、目の前で大変なことが起きてるぞって。でも、実の親だったら割り切れなかっただろうなとも思います。起きて夫のげっそり感を見ていると、傷ついているんだろうなって。もう乗り越えるのは難しいので、受け止めるしかないですよね。みんななるんだから、って。すーっと簡単に死ねることなんてなかなかないですから。
私たち「書く」っていう手段があってよかったよねって
――大変な出来事に直面しても、どこかで好奇心を持って受け止められるのはやっぱり村井さんだからこそなんじゃないかなと思います。本作にもそれがとても表れていますよね。悲壮感がないというか。
村井 どうだろう。この前、とあるコラムニストの方さんとも話したんですけど、私たち「書く」っていう手段があってよかったよねって。なんとかしてこの逆境をプラスに変えていこうっていう気持ちがあったから、線引きできたのかもしれないですね。介護なんてマイナスばかりでプラスがない。地獄ですから。
あと、私は書くことで収入を得ているので、それもモチベーションになりました。もちろん困っている人がいるから助けたいという気持ちはありますけど、義理の両親への愛情が原動力なんて気持ちは、正直ないですから。だって結婚するまで知らない人だもん。自分の時間を投資する見返りがあるかどうかは大事でした。
――義理のご両親を介護する理由に納得できたってことですね。
村井 その通りです。例えばこれがフルタイムで仕事してる女性とかに介護の負担が振りかかったら、そんな残酷な話はないですよ。お金も取られるばっかりだし、義理の両親だったらまだわかるけどっていう。
