俳優の余貴美子が今月12日、70歳の誕生日を迎えた。公開中の映画『箱の中の羊』(是枝裕和監督)には、主演のひとり綾瀬はるかの母親役で出演している。同作は今月フランスで開催されたカンヌ国際映画祭のコンペティション部門にノミネートされたことが記憶に新しい。(全2回の1回目)

 余は今回のカンヌ映画祭には出席しなかったが、いまから17年前の2009年、前年に出演した『おくりびと』が米アカデミー賞で外国語映画賞を受賞したときには授賞式に出席している。

2009年2月、映画『おくりびと』が米アカデミー賞外国語映画賞を受賞。レッドカーペットに登場した(左から)本木雅弘、広末涼子、余貴美子、滝田洋二郎監督 ©EPA=時事

レッドカーペットを歩きながら思い出した「下手な女優」時代

 本来、アカデミー賞の授賞式に招待されるのは監督とその配偶者、主演俳優だけらしいが、このときは監督の滝田洋二郎を慕う多くのスタッフが応援のため自費で渡米した。余も同行して宴会だけに参加するつもりでいたのを、授賞式の前夜になって急遽、出席できると決まったという。着ていく服もなくメイクもついていなかったが、監督から「それでも出ろ!」と言われ、光栄に与かったらしい。

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 授賞式の会場に入るまでには、監督と主演の本木雅弘らとともに150メートルあるレッドカーペットを各国の取材陣につかまりながら1時間ぐらいかけて歩いた。このときのことを彼女は《世界中の映画人たちが歩く中に私たちもいることに感動して、昔、オンシアター自由劇場というところで、下手な女優をしながらトンカチ持ったり衣装を縫っていた時代を、一瞬思い出しました。よく私はここにいるなって》と感慨深げに振り返っている(『週刊朝日』2010年1月29日号)。

 オンシアター自由劇場は1970年代半ばから80年代にかけて六本木の劇場を拠点に活動していた劇団(のち渋谷のシアターコクーンに拠点を移し、1996年に解散)で、笹野高史や小日向文世ら多くの名優を輩出した。上演作品のうち、戦前から敗戦にいたるまでの上海を舞台に、日本から渡ったジャズメンとそれに絡む女性たちを描いた『上海バンスキング』(1979年初演)は評判が評判を呼び、ブームを巻き起こした。余はこの劇団に20歳だった1976年に入団し、8年間在籍した。