今月12日に70歳の誕生日を迎えた俳優・余貴美子。前編(#1)では、映画『おくりびと』でレッドカーペットを歩いた際の秘話、演劇界での波乱万丈なエピソードなど、俳優としての歩みを紹介した。「ハマのマリア」と呼ばれた高校時代から、自身のルーツに対する思い、50歳での結婚……。ベテラン女優の軌跡を辿る。(全2回の2回目)

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「セリフ以外を言うのが怖い」

 余貴美子は1984年にオンシアター自由劇場を退団後、80年代後半からは舞台だけでなく映画やドラマにも出演を始め、いまでは映像の仕事をメインに活躍している。日本映画には欠かせない存在であり、日本アカデミー賞の最優秀助演女優賞もこれまでに3回受賞している(この回数は黒木華と並び1位)。俳優としてのキャリアもすでに半世紀におよぶ。それにもかかわらず、いままでに応えたインタビューは思いのほか少ない。

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 本人によれば、若い劇団員だったころに稽古のたび人格に対し否定的な言葉を浴びせられて生きていたこともあり、取材を受けるのが怖くなってしまったらしい。近年、珍しく取材に応じた記事では次のように説明する。

《一応、平気そうに振る舞うんですが、自分のことをお話しするのが怖いんです。セリフ以外を言うのが怖い。恐ろしくて面白い人生は、ドラマや映画だけで結構でございます、という感じ。お金もセンスも知性もないとなると何を話せばいいのか。途方に暮れてしまいますね》(『週刊朝日』2022年1月7・14日号)

余貴美子 ©文藝春秋

 そこまで卑屈にならなくても……とも思うが、それは俳優という職業がすっかり生きがいとなっていることの裏返しなのかもしれない。実際、それをうかがわせる発言は少なくない。たとえば、10年あまり前のインタビューではこんなことを語っていた。

《すごくいい職業を選んだなとは思いますね。芝居のなかでは、エイジングを自分でデザインできるわけじゃないですか。舞台の上なら20代にもなれるし、アンチエイジングとは逆に、わざと皺を描いて楽しむこともできるんです》(『anan』2015年2月18日号)

「エイジングを自分でデザインできる」とは彼女がたびたび口にしていることだ。先の「セリフ以外を言うのが怖い」と言っていた記事でも、年齢を重ねていくことは“老い”ではなく“変化”ととらえているという話から、顔のたるみや皺を引き上げる美容術のリフトアップになぞらえて《私が昔から心がけているのは、“心のリフトアップ”です。なるべく、いろんなことに興味を持って、学習して、一つでも多くのことを知っていく。知らないことを知ることが、元気になることにつながるんです》と話していた(『週刊朝日』前掲号)。