出会った日に「ふたりは結婚する」

 ちなみに夫とは友人の結婚式の二次会で出会い、その日流れた横浜のバーで占い師から「ふたりは結婚する」と言われ、さらに1週間後、テレビの番組で共演した占い師からも同じことを言われたという。50歳での結婚で、《この年齢で結婚すると、夜、話す相手がいることがすごく楽しいって思えるんです。昨日も寝る前に二人で「豊かになるってどういうことだろう」なんて話し合って……》と、結婚して数年が経ってからの対談でもうれしそうに話し、司会の阿川佐和子から「夫婦で対談やってるみたい」とツッコまれるほどだった(『週刊文春』2008年11月27日号)。

©文藝春秋

 結婚もそうだが、余は奇しくも10年置きに人生の節目を迎えてきた。20歳で俳優として活動を始め、その後、30歳で仲間と劇団を結成し、40歳のときに解散している。いまから10年前、60歳のときにはとりたてて大きな出来事はなかったようだが、その5年ほど前から演じる役柄に変化が表れていた。

 それまで現実にはありえなそうな役どころが多く、本人もむしろそのほうが演じやすいと思っていたところ、55歳のときに映画『RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ』(2011年)で専業主婦の役に起用された。このあたりから実年齢と同じ役を演じることも増えていく。

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「棺おけに何度も入ったし、遺影も…」

 70歳を前に、今年(2026年)1月に登壇した出演映画『安楽死特区』の舞台挨拶では、「私もそれなりの年で、もう70という年になってですね、あの世とこの世をウロウロしているような……セリフを言ってても役か現実かがよくわからず、今年もいろいろなお役をいただいて棺おけに何度も入りましたし、遺影も何枚も撮りまして、何かふわふわした現場でした」と話していた。8月公開の映画『見えない娘 THE INVISIBLES』でも、3姉妹の孫を持つ祖母にして大女優の役を演じる。

“伝説のホラー女優”役を演じる(映画『見えない娘』公式Xより)

 私生活のほうもますます充実しているようだ。劇団時代に始めた三味線は、映画のロケ先で出会った沖縄の三線(さんしん)、さらには50代になって津軽三味線にも手を広げた。50代の終わりがけになって、仕事の必要から能の(うたい)仕舞(しまい)も習い始め、自宅地下にある稽古場で大声を出して練習しているという。こうした伝統芸能への関心は、若いころ日本舞踊家だった母の影響もあるらしい。母は踊りを結婚を機にすっぱりやめたが、子育てが終わり、商売からも手を引いた60歳前後に再開し、80歳をすぎてもなお踊り続けていたという。

 こうして見ていくと、彼女のなかでは先祖から受け継いできたものと、青春時代に洗礼を受けたアナーキーなカルチャー、さらに現在にいたるまで稽古を続ける日本の伝統芸能と、さまざまな文化が融合されながら、俳優・余貴美子を形成しているようだ。こうして培われた土壌から、70代に入ってさらにもうひと花、ふた花咲かせるのではないか、そんな期待を抱かずにはいられない。

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