「荒い息遣い、飛び散る汗、ぶつかり合う肌、むき出しの裸体」と謳った映像を下心満タンで入手したら相撲のビデオだった、という笑い話が昭和の中学生の間で語られていたことを思い出した。
それはさておき、相撲で飛び散るのは汗だけではない。血も歯も、なんなら耳も飛び散る苛烈な映像に、思わず息をのむ。張り手の激しさを鮮烈な映像で表現した『サンクチュアリ―聖域―』(Netflix)の話だ。
思い返しても、相撲はテレビドラマでほとんど描かれてこなかったような。朝ドラ『ひらり』(1992年)は相撲好きなヒロイン(石田ひかり)がメインだし、『まったナシ!』(1992年・日テレ系)もお嬢様(斉藤由貴)が相撲部屋の女将になって奮闘する話だ。『土俵ガール!』(2010年・TBS系)も元力士の娘(佐々木希)が元ちびっこ相撲の横綱で、高校の相撲部コーチというラブコメディ(中村倫也のふんどし姿をぜひ)。
そういえば、映画『菊とギロチン』(2018年)も大正時代の女相撲興行の話だった(主役の女力士は木竜麻生)。あれ? なぜか女性主体が多い。パッと思いついた『押忍!!ふんどし部!』(2013年・TVK他)は男子高校生の話だが、相撲に一切関係ないし(ふんどしを締める伝統行事というだけで)。
おそらく最も有名なのは、もっくんこと本木雅弘が主演の映画『シコふんじゃった。』(1992年)だろう。ただ、これも学生相撲の話で、現役力士や大相撲の実態を描く作品ではない。面白おかしくエンターテインメントにすることはタブーだったのかな。日本相撲協会が許さなかったのかな。
その点、『サンクチュアリ』は生々しくえげつなくぶっこんでいく。「弟子に対するかわいがり」や「八百長」「星の貸し借り」など、角界の疑惑や闇も含めて真っ向から描き切った。それでいて、笑いあり涙あり、力士たちの下剋上青春群像劇に仕上がっていて、とても面白かった。
私自身は平成・令和の相撲の知識ほぼゼロ、最もよく観ていたのが千代の富士や寺尾の時代で、情報が止まっている。実家の近くに元大関・若嶋津が相撲部屋を開き、女将さんの高田みづえが買い物する姿を見た程度。断片かつ些末な情報しかない。それでも作品の魅力は伝えたいし、気になる点もあるので、書いておこう。