中東情勢の悪化に伴い、石油の供給不安が高まっている。そのような中、元経産官僚で、日本人で初めて国際エネルギー機関(IEA)事務局長を務めた田中伸男氏は、IEAの現事務局長ファティ・ビロル氏の言葉を借りつつ、「石炭・石油の時代から、『電気の時代』へと急速に移行している」と述べる。

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国家戦略としての「脱炭素」

 IEAが設立されたのは、1974年のことです。第一次オイルショックを受けて、エネルギーの安定確保に危機感を抱いた先進国が連携してつくられました。

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 エネルギー安全保障の観点から見て、現在は、当時とはまた違った“地政学的構図”が浮かび上がっています。「ペトロステート(石油国家)」と「エレクトロステート(電気国家)」の覇権争いです。

田中伸男氏 Ⓒ文藝春秋

「ペトロステート」とは、米国やロシア、サウジアラビアなど石油や天然ガスを自前で賄い、化石燃料を重視する国家のことです。「ドリル・ベイビー・ドリル(掘って、掘って、掘りまくれ)」という米国のトランプ大統領のスローガンが、この戦略を象徴しています。

 他方、「エレクトロステート」とは、欧州や中国など化石燃料に乏しい国家のことで、代わりに原発や再生可能エネルギー、すなわち脱炭素エネルギーに力を入れています。

 なかでも中国は、脱炭素分野で覇権を握るべく、バッテリーやモーターといった先端技術やこれに不可欠なレアアースなどの鉱物資源の輸出あるいは禁輸を“国家戦略”に位置づけている。早くも1992年に「中東に石油あり、中国にレアアースあり」と述べていた鄧小平氏の言葉が、今さらながら“予言”のように響いてきます。

 つまり、脱炭素戦略も、「地球環境にやさしい」といった“倫理”以上に、「化石燃料の輸出国に依存しない」という“地政学的な覇権争い”の一環として進められているのです。国際政治学者のイアン・ブレマー氏率いるユーラシア・グループが、今年の「世界10大リスク」の2番目に〈「電気国家」中国〉を挙げているのも、そのためです。あたかも“地球環境保護の先導役”であるかのように振る舞っている欧州にしても、国益第一で動いていることに変わりはありません。

 エネルギー地政学において、各国がどんな条件に置かれているかを端的に示すIEAのグラフがあります。石油と天然ガスの輸出と輸入の割合にしたがって各国を位置づけたものです。

世界のエネルギー事情について説明する田中氏 Ⓒ文藝春秋

 これを見ることで、各国がどんな戦略をとるべきか、どの国と連携するのが得策か――軍事的な安全保障を自国で完結できる国が稀であるように、エネルギー安全保障も他国との連携が鍵を握る――ということも見えてきます。

 例えば、かつては石油も天然ガスも輸入していた米国は、シェール革命によって双方とも輸出する国に変貌しました。だからこそ、「ペトロステート」の道を進んでいる。

 このグラフで特異な位置を占める国は二つ。石油も天然ガスも100%輸入している日本と韓国です。