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「後のない緊張感が生徒を育てる」という指導者も

「負けたら終わり」のトーナメントには独特の緊張感があり、見ている方はたまらない。「後のない緊張感が生徒を育てる」という指導者もいる。しかし、春夏の甲子園を軸にトーナメント一辺倒で運営される高校野球は「特攻」「玉砕」を生みやすい。吉田くんをはじめとするカナノウの「雑草軍団」には「ここで終わっても構わない」という悲壮感が漂っていた。

「全員がプロになるわけではないのだから、完全燃焼させてあげたい」という専門家もいる。しかし18歳の若者に「完全燃焼」を求めているのは指導者であり、主催者であり、観客である。人生100年の時代、18歳で一旦燃え尽きた若者は、その後の82年間をどう過ごすのだろう。

決勝戦のマウンドで、時折つらそうな動きを見せた吉田投手 ©AFLO

 高校野球が「教育」だというのなら、指導者や主催者はそこまで考えるべきではないだろうか。二度とボールが投げられない体になったり、二度と野球などしたくない気持ちになったりした選手を「野球でここまで頑張れたのだから、残りの人生もきっと頑張れる」と放り出すのが教育だろうか。

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一発勝負のインターハイや選手権より「大きな試合」

 大会運営の改革が進んでいるのが高校サッカーだ。

 夏の甲子園より一足早く始まったサッカーの高校総体(インターハイ)。千葉県大会の準決勝で全国大会の常連、流通経済大学付属柏高校は習志野高校に1対2で敗れた。怪我から復帰したばかりのキャプテン、関川郁万くんは試合終了のホイッスルがなると、ニコニコしながら習志野高校の選手の肩を叩いた。

 決して「緩い」わけではない。プロや日本代表、海外のクラブチームを目指す彼らには、一発勝負のインターハイや選手権より「大きな試合」があるのだ。2011年に始まった「高円宮杯JFA U-18サッカープレミアリーグ」である。

 プレミアは2011年に始まったU-18世代最高峰のリーグ戦で、高校チームとJリーグのユースチームが東西に別れ、ホーム&アウェイで年間18試合を戦う。彼らにとってはこのリーグが「世代最強チーム」を決める戦いの舞台だ。プロのスカウトも運に左右されにくいリーグ戦で、選手の実力をじっくり見極められる。

高円宮杯JFA U-18サッカープレミアリーグ」のキャッチコピーは「毎週末が“天王山”」(日本サッカー協会HPより)

一発勝負はスポーツ本来の「楽しさ」を奪いがち

 世代別日本代表の常連でもある流経大柏の関川くんの場合、5月には鹿島アントラーズから内定が出ていた。インターハイでは怪我の状態も考えつつの「安全運転」。流経大柏の監督が無理な使い方をしたら、アントラーズから「ちょっと待ってくれ」とクレームがつくだろう。まして若い選手を育ててトップチームに上げることが使命のJユースの指導者にとって、「特攻」「玉砕」はご法度だ。優勝しても選手を壊してしまったら「何をやってるんだ」と大目玉を食らう。

 高校サッカーの場合、プレミアの下には「プリンスリーグ」があり1部、2部、3部、4部と続く。同じレベルのチームが勝ったり負けたりを繰り返し、好成績を収めれば上のカテゴリーに上がれる。したがって野球のコールドゲームのような一方的な試合は少ない。

 負けられないトーナメントにも面白さはあるが、「特攻」「玉砕」の戦いは指導者や選手に過度のプレッシャーを与え、スポーツ本来の「楽しさ」を奪いがちだ。悲壮感を漂わせた高校生を炎天下の過密日程で戦わせる「夏の甲子園」。この感動ハラスメントが続く限り、科学的、物資的な不利を精神力で補おうとする日本の悪癖は治りそうにない。