美貌の芸者・愛みつの三味線

 愛みつは、かつて歌舞伎役者・4代目尾上菊之助(のちの7代目尾上菊五郎)の恋人ともいわれた美貌の芸者であった。

 安藤は、東映の京都撮影所での撮影が終わると、とあるバーにマネージャーと通うようになった。それは、愛みつの妹が経営するバーであった。そこに姉である愛みつが、ふらりとやって来て、安藤に一目惚れしてしまう。

 その後、愛みつは、しばしば安藤が京都に借りていたマンションにやって来るようになった。稽古用の三味線をマンションの安藤の部屋に置いたまま、芸者としてお座敷に向かうこともあった。

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 ある日、瑳峨三智子が、安藤には内緒で安藤の住むマンションにやって来た。合い鍵を持たない瑳峨は、管理人に「瑳峨ですけど……」とでも言ったのであろう。管理人が、安藤と瑳峨との関係を勝手に察して、部屋の鍵を開けてしまったようだ。

女優の瑳峨三智子 ©文藝春秋

 瑳峨は、マンションの安藤の部屋に入ると、“三味線”を見つけて我を失ったに違いない。安藤に、芸者の恋人ができたことを悟った。

 瑳峨は、安藤に会うことなくそのまま東京にUターンした。

 安藤は、そんなことは露知らず、帰宅した。そこで、切り刻まれた無残な三味線の残骸を見つけて驚愕した。

〈サガミチだな……〉

 本来ならば、クールな印象さえある瑳峨は、嫉妬に狂うようなタイプではなかったはずである。が、安藤との3年間が、瑳峨を変えていた。情が濃くなっていのであろう。瑳峨は、もはや嫉妬からくる怒りが抑えられない女性になっていた。その一件から、安藤は、瑳峨との関係を絶つ。