農作業の開始から家屋の建設まで、東アフリカのルオの人々は、災いを退けるために「特別な性交」を儀礼として行う。夫に先立たれた妻には「代理夫」が与えられ、その役割には儀礼的セックスも含まれるという。生殖でも快楽でもない、「第3のセックス」とはどんなものか。『人類学者が教える性の授業』(ハヤカワ新書)より一部抜粋してお届けする。

◆◆◆

冠婚葬祭や引っ越しのときも…儀礼としてのセックスとは?

 東アフリカのヴィクトリア湖東岸一帯に住むルオの人々の間では、しばしば不幸なことや災いが降りかからないように、事が起きる前に、さまざまな儀礼が行われています。土地分配、子どもの誕生や結婚、または親や子どもの死に際しての人生儀礼、耕作・種まき・雑草取り・収穫などの農作業の開始、独立コンパウンド(屋敷地)の建設など特別な機会には、儀礼としてセックスを行います。

ADVERTISEMENT

写真はイメージ ©︎AFLO

 ルオ社会における儀礼的セックスに関しては、『結婚と死をめぐる女の民族誌』(世界思想社)など人類学者の椎野若菜による調査・報告に詳しく紹介されており、本節もその内容に基づきますが、椎野自身この儀礼的セックスを「特別な性交」と記しています。つまり、ルオ社会では、生殖や快楽のために行うセックスとは別に、災いが降りかかってこないようにする「特別な性交」というものがあるのです。

 ルオ社会におけるセックスを見ていく前に、そもそもルオの人々がどんな生活をしているのか、まず簡単に解説しておきたいと思います。

結婚した順に序列がある複数の妻たち

 ルオの人々は、主に漁業や農業、牧業に従事しながら暮らしており、既婚の男性を中心に2、3世代にわたる拡大家族が、ひとつのコンパウンドのなかで集まって暮らしています。ルオの男性は複数人の妻を持つことができるため、コンパウンド内にそれぞれの妻の家屋を建てて生活します。何事においてもリーダーシップを発揮する夫を中心として、子どもたちは生まれてきた順、妻は結婚した順に序列があり、コンパウンド内のさまざまな活動がなされねばならないことになっています。

 ルオの慣習的規範では、こうしたコンパウンドの序列に従って決められた活動をきちんと行わないと、不幸なことが起こるとされ、ルオの人々の行動はこの規範にかなりの程度、方向づけられています。コンパウンドでの生活は、そのように、強力に彼らの精神世界に根ざしていると言えるでしょう。