『麒麟がくる』の沢尻の出演シーンは結局、川口春奈を代役に立て、すべて撮り直して放送された。これについてはNHKが検討していると報じられたときから、ネット上では収録済みのシーンを予定どおり放映するよう訴えるキャンペーンが展開され、3万人以上が署名している。薬物使用はもちろん罰せられるべきことではあるが、一方で当事者がいずれは社会復帰できるよう、十分な治療のほか社会の寛容さも必要だという認識が徐々に広まりつつあったころだった。

裁判では「女優への復帰は考えていません」…復帰を後押しした存在

 沢尻もまた治療を続けながら、執行猶予の期間が終わるまで沈黙を保つ。裁判では「女優への復帰は考えていません」と述べていたが、その後、彼女のなかでは葛藤があったようだ。2024年、舞台『欲望という名の電車』で俳優業を再開するにあたっては、戸惑う自分を後押ししたものは何だったのかと問われ、次のように答えている。

《光栄にも、私のファンでいてくださる方々に、偶然にもお会いする機会があったんですよね。『やめないで』と涙まで浮かべてくださったり、応援していると真っすぐに伝えてくださったりして。実はこれまで、ファンの方の存在はなぜかすごく遠いものでした。でもその思いに直に触れることができたとき、『申し訳なかった』『恩返しがしたい』その両方の思いが素直にあふれ出てきたんです》(『GINGER』2024年2・3月号)

映画『人間失格 太宰治と3人の女たち』(2019年)公開記念舞台あいさつでの沢尻エリカ ©時事通信社

 初舞台で、目の前の観客と一緒に作品をつくっているという感覚を味わい、すっかりハマった沢尻は、今年(2026年)、『ピグマリオン―PYGMALION―』で2度目の舞台に立った。オードリー・ヘップバーン主演で映画化もされたミュージカル『マイ・フェア・レディ』の原作(作者はイギリスのノーベル賞作家バーナード・ショー)であるこの作品で、彼女は主人公のイライザを演じた。貧しい花売り娘だったイライザは、言語学者のヒギンス教授(六角精児)の徹底した指導のもと上流階級の言葉を体得するが、そのことを自らの手柄だと酔いしれる教授と最終的に決別し、花屋を開くという彼女自身の夢をかなえる。その変貌ぶりを沢尻は見事に演じていた。

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舞台で共演した橋本良亮、六角精児と(舞台「ピグマリオン―PYGMALION―」公式Xより)

 さらに今年2月には、7年ぶりの出演映画『#拡散』が公開された。こちらは、気鋭の中国人監督・白金(バイ・ジン)が日本の地方都市を舞台に、コロナ禍以降、顕著となった社会の分断をテーマに撮った意欲作だ。そのストーリーは、成田凌演じる男が、妻が急死したのはコロナワクチンの副作用が原因だと思い込み、ひとりで医師を告発するうち、大きな動きに巻き込まれていくというもので、沢尻はそのなかで重要な役割を担う新聞記者を演じた。