将棋界で最も深い歴史を持つタイトル「名人戦」が開幕した。3連覇中の藤井聡太名人(23)に挑んでいる糸谷哲郎九段(37)は、日本将棋連盟の理事職との“二刀流”。名人戦に先立ち、藤井名人との対局に向けた意気込みを糸谷九段(※取材時は八段)が語っている(取材・構成 大川慎太郎)。
藤井名人も人の子?
――藤井名人は、これまでタイトル戦に35回登場して、驚異の33勝(3月23日現在)です。最強の相手をどう分析していますか。
糸谷 まず、弱点は見当たりません。序中盤も研究が深いですし、終盤戦になると他の棋士より“射程”が長く、鋭い。私が読み切れないと思って指している局面でも、読み切っていることが多い。読みの深さや計算力も桁違いですし、集中力もずば抜けていますよね。王将戦や棋王戦でフルセットまで追い込まれましたが、今の藤井名人が不調かというと、そんなことはないでしょう。
王将戦に関しては、奪取こそなりませんでしたが、挑戦者の永瀬九段の作戦が光っていました。角換わりという戦型を徹底的に研究して、中盤で優位を築く、最先端の「研究将棋」です。これまでは終盤で逆転されることが多かったのですが、今期はそれがなくなり、そのまま押し切るような試合運びをされています。永瀬九段の対藤井戦の作戦は、非常に充実されている印象です。
ただ藤井名人も人の子ですから、忙しさで少し乱れが出ているのかもしれません。棋王戦の第三局では、挑戦者の増田康宏八段の粘りが功を奏して、終盤は逆転されてしまいました。これまでの藤井将棋では、あまりなかったことですが、やはり二つのタイトル戦を並行して戦っていると、追い込まれることもあるのかもしれません。まあ、タイトル戦を30回以上も経験していれば、窮地に立たされることがあるのも自然ではないでしょうか。
