驚くべき婚礼費用
この記事が語るところによれば、廬高朗と知り合いだった写真師の小川一真が、八百子の器量や姿を見て絶世の美人と認め、彼女の写真を撮影して、昨年開催された大博覧会の第二号館に陳列した。(中略)この名人が撮影した美人写真は、たちまち観客たちの評判になり、岩崎俊弥もそれを見るなり、魂が抜けたようにフラフラになってしまった。ついに、彼女と結婚できなければ、この世に生きている甲斐はない、とまで思いこんで、博覧会見物の数日後には病気になってしまった。(中略)
ついに、岩崎家では仲介役を立てて、廬高朗を訪ねてこの縁組に対する意向を確認したのだが、岩崎家とではとても釣り合わない、と再三辞退をするばかり。そこで、岩崎家の親戚である前外務大臣の加藤高明が説得に乗り出して、ようやく廬高朗に承諾させた。
八百子が華族女学校を卒業したので岩崎家では急いで婚約を結び、当主の弥之助が病気のため、昨年十二月に儀式抜きでとりあえず花嫁として彼女を迎えた。披露宴は三月ごろに改めて行う予定だという。
さらに、記事のその先に書かれている嫁入り支度の品々がすごい。そのほとんどの品は、大富豪の岩崎家の側が用意したらしい(句読点を補った)。
何分次男一生の恋女房とて支度の品々高貴の物ばかり。衣裳は三越に申付け、同家お好の盆栽模様の六十余組、夫に帯と帯留は皆一組別々の注文で、此金数万円、又た玉宝堂及び美術工芸会社よりダイヤ入ブローチ指環数十個及び帯留など、一品百円以下の物無く、此代少くも二三万円に上りたり。又た俊弥氏が精神籠めての贈物は巴里から取寄せたる三万円のブローチにて、宝石二百余個入の珍品なりとか、廬氏に於ても一代の婚儀とて数万円を費したれば、之に宴会の費用其の他を合すと、少なくも二十万乃至三十万円は要る勘定にて、一寸お目出度連を驚ろかす訳合なり。
パリから取り寄せた宝石二百個以上をちりばめたブローチをはじめ、婚礼の品々と結婚披露宴のために使う金額が、少なく見積もって二十万円から三十万円だという。現在の物価に換算すると、果たしていくらになるのか……。十数億円かそれ以上であることだけは間違いない」(『明治のお嬢さま』)。