誰もが、こんな綾瀬はるかのドラマを観たいと願っていた。『義母と娘のブルース』第七話の視聴率は十五%を超え、夏ドラマではブッチ切りの断トツ首位を独走中だ。
もちろん“誰もが”は言葉の綾である。いまや国民的アイドルとなったNHKの五歳児「チコちゃん」のナレーターをつとめる森田美由紀アナなら、こう言うだろう。
「これまで綾瀬さんに、幾度となく笑わせてもらっておきながら、それも忘れて最近の綾瀬ってアクション女優のイメージが強かったから、腹踊りまでするギャップが超スゲエ、などと間抜けなことをいっているニッポン人の、なんと多いことでしょう」
金属会社のエリート部長、岩木亜希子(綾瀬はるか)が子連れの男と結婚する。相手の宮本良一(竹野内豊)は、ライバル会社の社員で、性格は温厚で優しいが、仕事はボチボチだから、同僚たちはその格差婚に仰天した。
おまけに良一の娘、みゆきは亡くなった母を忘れられないから、亜希子に反抗する。娘の心を開かせるため、亜希子は腹踊りを披露した。
綾瀬ファンの小林信彦さんは、本誌八月九日号で「実はコメディこそこの女優の勝負どころである」と、その本質を簡潔に記す。しかし「彼女はそこまで演じなくても充分におかしいのだから、仮に腹芸をやりたくても抑えてくれればいい」と書き添えた。
同感です。超絶スキルの持ち主が『家政婦のミタ』をも凌ぐロボット声で、娘と仲良くなるため頓珍漢な接近を試みるだけで充分かつ程良く笑えるのだから腹芸は不要だ。
回を重ねるごとに、娘は義母の(勘違いなほど)献身的な愛情に表情を和らげて“家族”の繋がりが芽生える。
格差婚の謎も、二人がなぜああまで娘を大事に育てるかも判る。良一は難病で余命宣告を受けていた。自分が死んだら、娘を暖く育てるという役を、亜希子さんアナタにリレーしたいんですよ、と良一は頼んでいた。死の淵に臨んでも、ふわっと優しげな笑みを浮かべ、周囲を柔らげる。そんな稀な力をもつ市井の男を、竹野内が好演。
冒頭で“こんな綾瀬はるかのドラマ”と書いた。“笑いと健気”の奇跡の共存。私はそんな綾瀬ドラマを、二年に一度でいいから観たい。コメディで一途に押し切ったからこそ、感動がジワッと湧く。十八歳になる娘と、仕事に復帰した母は、どんなブルースを最終回に奏でるのか。
▼『義母と娘のブルース』
TBS 火 22:00~23:07
http://www.tbs.co.jp/gibomusu_blues/