互いに考えを伝え合えず、“フキハラ”に

 横尾さんの女性上司への態度は、職場で上司や同僚などに不機嫌な口調や態度を取り、相手を不快にさせたり、精神的苦痛を与えたりする“不機嫌ハラスメント(フキハラ)”であるといえる。だが本人に加害者としての自覚はなく、むしろ、過去のインターンシップでのつらい経験に加え、女性課長が上司になってからの指示の方法や不適切な発言の「被害者」という意識が強く、無視や怪訝な態度といった行動に出てしまったと説明する。

 厳重注意を受け、24年4月の定期人事で総務部に異動した。同年夏、27歳の横尾さんは、うつむき加減で時折言葉に詰まりながらも、こう思いの丈をぶつけた。

「女性課長に取った態度は反省していますが……課長はインターンシップで僕を指導したことも覚えていなくて……。課長になったばかりで正直、指導力不足というか……仕事の指示もわかりにくく、3年前から人事部にいる僕の考えを聞こうともせず、一方的に命令してきたんです。そ、それに……『男なんだから、もっとしっかりして』とか、しょっちゅう言われて……やっぱり変わっていないなと……。なんか、悔しさや怒りを通り越して、何もやる気が起こらなくなってしまったんです……」

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「女性課長に、指示された内容が理解しにくいので、わかりやすく説明してほしい旨、伝えなかったのですか?」

「…………」

「女性課長の言動について、誰かに相談しましたか?」

「社内でまだ少数の女性の管理職は周囲からチヤホヤされていますし……周りは見て見ぬ振り、だったんじゃないかな。とても相談できる状況ではありませんでした。それに……僕なんかが訴えても、取り合ってもらえませんよ」

「無視やふてくされた態度を取って、女性課長はもとより、部署内の雰囲気が悪くなって職務の遂行にも影響するとは考えませんでしたか?」

「……うーん、考える余裕はありませんでしたね。向こうがそうなら、こっちも……という感じでしょうか……自分の考えや要望を率直に伝えられれば、良かったんでしょうけれど……無理でした……。あの課長が異動してくるまでは、職場の人間関係も比較的良くて、人事の仕事にそこそこやりがいを感じて働くことができていたので……異動させられたのは無念でなりません」

 横尾さんは厳重注意を受けた際、女性課長の不適切な発言などについて訴えたが、彼が実質的な左遷人事となったのに対し、女性上司側は厳重注意も懲戒処分も対象にはならなかったらしい。横尾さんのハラスメント行為が比較的可視化されやすかったのに比べ、管理職経験に乏しい女性課長が彼に対して「男なんだから……」などと日常的に話していたことはジェンダー・バイアスのかかった差別的言動ながら、問題視されにくかった可能性が高い。

 フキハラの背景にある加害者、被害者双方のケア力欠如の問題と、そこに至る社会的、心理的な要因について、インタビューを始めた数年前にさかのぼって考えてみたい。