「自分よりも先に相手のことを」
横尾さんの勤める会社は中小メーカーで社内のICT(情報通信技術)環境の整備が十分ではなかったこともあり、最初の取材から3か月ほど経った2020年秋には、ほぼ対面での通常業務に戻った。
定期的に話を聞いていたなかでも、職場の上司や先輩とうまくコミュニケーションを図れるよう、努力を積み重ねている様子が伝わってきた。
指示やアドバイスの内容などで理解しづらい点については、「勇気を出して自分から尋ねるようにしていたら、少しずつですが、対面での仕事に慣れてきたように思います」などと語り、時を重ねるにつれ、女性社員も含めて職場の人間関係の苦手意識を克服しつつあるように見えた。
ところが、23年春から急に連絡が取れなくなる。そして、24年夏のインタビューで、この間に女性課長からの指示を無視するなどのハラスメントを行ったとして厳重注意を受け、24年春の定期人事で総務部に異動になっていたことを知るのだ。
現在、総務部で備品管理や会議室の予約調整などの業務を担当している。25年の晩秋、28歳の横尾さんは、職場の人間関係やハラスメントが起きる背景などについて改めて考えを話した。
「僕が女性課長に行った行為を反省していますが、彼女の言動は不適切だったと今でも思っています。あの出来事があってから、改めて職場の人間関係やコミュニケーションのあり方について深く考えるようになりました。難しいことで、僕もあの人(女性課長)もできなかったことですが、自分よりも先に相手のことを考えることが重要なんでしょうね」
わずか1年余りの間に内面的な変化があったことがうかがえた。
「備品の補充で社内の各部を回っていると、職場によって活気のあるところとそうでないところがあるんです。どこでボタンの掛け違いが生じたのか、なんて大きなお世話かもしれないですが、う、ふふ……考えたりしちゃいます。いつかまた、人事部に戻れたら、風通しの良い、ハラスメントのない職場作りに取り組みたいのですが……」
もう、以前のように言いよどんだり、伏し目がちになったりすることはない。こちらに視線を向け、思いを語った。