配信ドラマ活況の副作用
ただ、2025年の韓国映画界は「過去20年で最悪の不況」と言える深刻な危機的状況にありました。韓国映画の売上が歴代最低水準まで落ち込み、以前であれば当たり前だった「1000万人動員映画」が一本も生まれないという異例の事態となりました。
「配信の先進性」が、皮肉にも「劇場ビジネスの破壊」というブーメランとして返ってきているのです。
ネットフリックスなどの配信プラットフォームが韓国に進出したことで、制作現場の環境は改善されましたが、同時に俳優の出演料の急上昇を招きました。主演クラスの俳優のギャラが跳ね上がり、1本あたりの製作費が急騰。その結果、製作費が上がれば、劇場で回収しなければならない観客数(損益分岐点)も上がります。しかし、国内の人口・劇場市場規模には限界があるため、ヒットしても利益が出にくい、少しでもコケれば大赤字という「ハイリスク・ローリターン」な構造になってしまいました。さらに、コロナ禍に値上げした映画館のチケット代が劇場離れに拍車をかけます。作る側は、コスト高で劇場映画が作れない。観る側は、高いチケット代を払う価値を感じない。さらに配信の普及によって、お客さんの側の「少し待てばすぐ配信」という認識が抜けない。この三重苦が、長らく続いた映画文化の危機を招いています。
「配信先進国」として日本より先を行っていた韓国ですが、その副作用として「映画は劇場で観るもの」という文化そのものが解体されてしまったと言えます。「物語に投資し、構造で回収する」ビジネス手法が、劇場という装置を置き去りにしてしまったとも言えるかもしれません。
早川 敬之(はやかわ たかゆき)
1971年、宮城県生まれ。早稲田大学卒業後、94年、NHKに入局。ETV特集やNHKスペシャルなど主にドキュメンタリー制作に携わる。2010年、フジテレビに入社。編成部副部長などを務め、Netflix、Alibaba、Google等の海外配信事業者向けにオリジナル連続ドラマ・アニメ等を製作。21年からAmazon Prime Video日本オリジナルコンテンツ製作責任者として、『沈黙の艦隊』『バチェラー・ジャパン』『Broken Rage』等、数々のヒット作に関わる。24年に独立。現在は早川敬之企画製作事務所主宰、東北芸術工科大学映像学科教授を務めながら、世界配信作品をプロデュース。シカゴ大学経営大学院MBA、シンガポール国立大学公共政策大学院MPAでもある。
