12月上旬に颯爽と現れたスーパークリスマスボーイ

 12月7日。某ホテルが他のどこよりも早く、クリスマスケーキの引き渡しを開始する日。

 私は朝から気合いを入れていた。ホームページによると、このホテルの場合、地下にある洋菓子店が引き渡し会場となっているらしい。引き渡し開始時刻は午前11時だ。

 私は、そのホテルに午前11時に到着できるようすべてを調整していた。というのも、今日引き取るケーキをケーキその1とするならば、この日の昼食からケーキその1を食べ始めないと、11日にケーキその2を引き取る際、ケーキその1からその2までの間に胃に十分な休息期間を与えられない可能性が高かったからだ。19日あるクリスマス期間中、いかに胃腸、そして冷蔵庫内のバトンタッチをスムーズに行えるかが最重要課題であった。一日三食のうちケーキに当てると見込んだ食事は、絶対にそうしなければならない。急な外食の誘いに応じたり食事を抜いたりすることは自殺行為だ。絶対に許されない。

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 午前11時の少し前、私はホテルに到着した。地下の洋菓子店に赴くと、やはりまだ11時にはなっていないからだろうか、オープンしてはおらず、閉じたままのガラス扉の向こう側で店員さんたちが忙しなく動き回っている様子が見て取れた。

 私は、閉まったままのガラスのドアの前にぴたりと寄り添うように立った。そのフロアに、他に客は一人もいなかった。

 店内で準備に勤しむ店員さんと、ガラス越しに目が合う。オープンまでの一分間、不思議な緊張感が二人を繋いでいた。

「いらっしゃいませ」

 ドアが開いた瞬間、私はレジに直行した。開店前からドア前で待機していたくせに店内の商品やショーケースに一瞥もくれない客に、店員さんたちは明らかに動揺していた。

「予約した○○です。クリスマスケーキの引き取りに来ました」

 始まった――。

 私は予約の詳細を伝えながら、そう思った。たった今、私のクリスマスが始まった。戦いの火蓋が切られたのだ。

 まさか店員さんも、引き渡し期間開始一秒でスーパークリスマスボーイが現れるとは思っていなかったのだろう。「少々お待ち下さい」と何かしら確認したのち、やっと納得した様子で、レジの背後から輝く白い箱を持ってきてくれた。

「中身をご確認いただきます。こちらで大丈夫でしょうか?」

 そこには、この日までに画像や紹介文を何度見直したかわからない、クリスマスの幕開けに相応しい上品なホールケーキが鎮座していた。王道の、苺のショートケーキだ。ふんわりと香る甘い匂い、職人の熟練の業が生み出す生クリームの曲線美と、瑞々しく輝く苺の張った肌。このシーズンの主役は私でしょうと言わんばかりのそのクラシックな佇まいに、私はうっとりした。やはり一つ目のケーキをキミにして正解だったよ――。

「ありがとうございます」

 私は帰りの電車に揺られながら、不思議な優越感に浸っていた。いま視界に映る誰も、同じ車両に、もうクリスマスケーキを手にしている人間がいるなんて想像もしていないだろう。だってまだ12月7日、しかも午前中なのだ。でも、あなたたちの知らないところで、クリスマスはもう始まっているんですよ。

≪その通りです。≫

 わ! 神様! 久しぶり!

≪クリスマス開始、おめでとうございます。だけど、おめでとうを伝えたいのは、あなただけではないんですよ。≫

 ど、どういうことですか?

≪あのホテルにとっても、たった今が、クリスマスの始まりだったということです。≫

 はっ確かに……言われてみれば、私が絶対に一人目ですよね、クリスマスケーキを引き取ったの。私によって、あのホテルのクリスマスが始まったということになるんですね!

≪その通りです。あのホテルのクリスマス初めを担ったのは、他ならぬあなたなのです。≫

 そう考えると、なんだかより誇らしいですね! 書き初めならぬケキ初め! 神様またね、バイバーイ!

(後編に続く)

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