いま、台湾で白色テロを描くこと

 近年、台湾では『返校 言葉が消えた日』(2019年)や『流麻溝十五号』(2022年)など、白色テロ時代を描く映画やテレビドラマが増えてきた。そんななか、本作の特徴は少女・阿月の視点からのみ当時を描いたことだ。

「白色テロという多面的な出来事には、少女の目からは見えないものがたくさんあります。だからこの映画では、阿月の知らないこと、理解できないことはあえて描きませんでした。異なる視点や角度から当時を見つめることで、ようやく時代の輪郭がはっきりしてくる。だからこそ、より多くの脚本家や監督たちが自分の視点で当時を撮るべきなのです」

チェン・ユーシュン監督

 白色テロ時代を扱った映画には、台湾国内からも「また白色テロの映画か」「そんな事実はなかった」といった批判が寄せられるという。本作もまたその例外ではなかったが、ユーシュンは「『本当にそんな時代だったのか?』と疑うことはきわめて真っ当」と語った。

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「本当に大切なのは、より多くの映画を撮りながら、私たち全員が過去の歴史に向き合うこと。そうして初めて、我々が未来をどう進んでゆくべきかがわかるのだと思います」

 台湾での公開後、本作は大きな反響を呼び、ユーシュン自身も驚くほどの評価を受けた。

「台湾の映画館では、エンドロールが始まると客席が明るくなり、観客はだいたい帰っていきます。けれど、この映画では観客のほぼ全員が最後まで席を立たず、時には拍手が起こることもありました。台湾でそんな体験をしたのは初めてのことでした」

『霧のごとく』

 もっとも、日本公開にあたっては「少し心配しているところもあります」と率直な気持ちも明かした。

「台湾の複雑な歴史を扱っているので、海外の観客には理解しづらいところがあるかもしれません。けれど日本の観客は、昔から私の映画を好きでいてくださっていますし、非常に研究熱心で理解力もある。この映画をきっかけに、台湾の歴史をもっと知りたいと思ってもらえたらうれしいです」

『霧のごとく』

『霧のごとく』
監督・脚本:チェン・ユーシュン/出演:ケイトリン・ファン、ウィル・オー、9m88、ツェン・ジンホア、リウ・グァンティン、ビビアン・ソン/2025年/台湾/134分/配給:JAIHO/Stranger/©  2025 Mandarin Vision Co,, Ltd. All Rights Reserved./5月8日(金)よりシネマート新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町、Strangerほか全国順次公開

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