覇者には将棋の神が付いている
北野 将棋という勝負の世界でそんなふうに思うことってほとんどないんですけど、A級に上がる時の伊藤さんには思いました。数日後にインタビューした時に尋ねてみると、実は御本人も同じようなことを感じていて「将棋の神様に感謝しなければなりません」と言うんですよ。
野澤 なるほど。自分が勝ってA級にいくイメージが、フッと入ってきたんでしょうね。
北野 用意されているわけじゃないのに自然と向かっていくような。覇者って、どこかそのようなものを持っているような気がするんですね。
野澤 羽生九段の七冠制覇も谷川浩司十七世名人が21歳で名人になったときも、完全にそうでした。この人がそれを遂げるんだって思えた。
北野 あの一局は、伊藤さんはもっと上までいく存在になるのかもしれないなと思わせる一局でした。
野澤 取材をしながら、それが見えたんですね。
北野 そんなシーンを作り出せる人はいないですからね。どれだけ追い詰められても、どれだけ苦しくても自然に指して、最後は勝っている。どういうことなんだろうと。
野澤 時代を作っていく人のストーリーは、そこに帰結するんだと思います。
実はサービス精神旺盛なトップ棋士
北野 今回の王将戦、棋王戦で藤井さんがダブルカド番から5連勝したのも同じようなものを感じますよね。王将戦で永瀬さん相手に1勝3敗と追い込まれた時、藤井さんでもこんな顔をするんだな、と思うくらい苦しそうにしていたんですけど、第5局で勝った時、スーッと消えたんです。ただそこにいて、真っ直ぐに、風のように勝っていく、というような。伊藤さんの昇級局は、藤井さんのカド番5連勝と印象において共通しています。
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伊藤匠をA級へと導いた「事件」:朝日新聞 https://t.co/wjlzGYxQMK pic.twitter.com/i6fccfFwMO
野澤 確かに伊藤二冠の充実は著しいですね。特にこの1、2年は指し手にほとんどミスがでない。評価値に表れる“伊藤曲線”が“藤井曲線”を上回る印象もある。相変わらず声が小さくてインタビュアー泣かせですが、以前は取材でオドオドした感じがあったのが、最近は雰囲気が変わってきました。タイトル保持者の責任と感じているのか、可能な限り取材を受けてくれますよね。
北野 忙しい中で、これを頼むのはちょっとなあ、と思うようなことでも「暇だったので嬉しいです」という返事をくれたりしますから。感謝……というか感激しますよ。藤井さんも対局室や会見場を離れるとサービス精神旺盛ですからね。面白いことを言おうと狙っているような印象も最近は強いです。
野澤 藤井六冠に関しても、連盟があそこまで取材規制を敷かなくてもよかったと思います。羽生九段が七冠制覇したときには、写真週刊誌にも普通に出てくれました。でも藤井六冠の場合は一般誌などが取材したくても、ほぼ全てが連盟で止められてしまう。
ご本人の素顔は記者会見で見せる印象とは別に、とてもユーモラスだと聞きます。子供の頃のエピソードからも、はしゃぐのは嫌いじゃない感じがする。S4(「女性セブン」誌での若手棋士グラビア)のオファーしたら、「伊藤さん(匠二冠)が載ったからには、自分も出ないわけにはいきません」とか言ってくれそうですけどね(笑)。
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