盤上に命を懸けるプロ棋士たちの素顔を、誰よりも間近で目撃する者たちがいる。将棋記者とカメラマンだ。

 今年4月、ともに新刊を上梓したカメラマンの野澤亘伸氏(『師弟 棋士の見る夢』)と、朝日新聞記者の北野新太氏(『夜を戦う 純情順位戦』)。その両者による対談が「文春オンライン」で実現した。

野澤亘伸(撮影=北野新太)

 これまで幾度も現場を共にしてきた二人。会話は自然と、現場で接してきた棋士たちの話題になった。(全3回の1回目/つづきを読む

ADVERTISEMENT

 ◆◆◆

全身の血が滾るような現場

北野新太(以下、北野) 棋王戦第4局の局後の対局室でお会いしたとき、全く話すタイミングがありませんでしたけど、野澤さんがどこから撮るのか、レンズは何を使っているのか、とかは意識して見ていました(笑)。棋士を撮るときに、自分に課しているルールってありますか?

野澤亘伸(以下、野澤) やはり対局者の集中力を妨げないというのは大前提としてあります。撮りたいというカメラマンのエゴを、どこまで許してもらえるか。これはスポーツ選手やタレントを撮る時も同じで、踏み込める境界を阿吽の呼吸で読まなければ、プロの現場ではやっていけない。

 対局の現場は朝がいいですよ。始まる前の緊張感が写真に写り込む。でも最近、雑誌は終局後にしか入れないことが増えました。以前に『将棋世界』の撮影のとき、昼食休憩にも入れたんです。菅井竜也八段が藤井聡太王将に挑戦した第一局でした。菅井八段は休憩をわずか10分程度で済ませて、対局室に戻って一人で考えているんです。

 背中からもの凄い圧が出ていて、空気はピリピリするほど張り詰めていた。ファインダーを覗くと、観たこともない表情で盤を睨んでいる。全身の血が滾りましたね。にじり寄ってカメラを向けるのは、本当は怖いんですよ。いつ怒鳴られるかと。でも、こんなシーンを前にして、撮れずに下がるようではカメラマン失格です。後ろで『将棋世界』の編集者がハラハラしながら見ていて、菅井八段がトイレに立ったときには冷や汗が出たと言っていましたけども。

昼食休憩中に盤を睨む菅井竜也八段 ©︎野澤亘伸

北野 昼食休憩時の撮影は確かに緊張しますし、気を使いますね。もう戦いの渦中にいるわけですから。視線には入りにくいですけど、視線を撮った写真は良いものになる事が多いです。だから私は数秒だけ視線に入って2枚だけシャッターを切ります。「これだけごめんなさい」という気持ちで。阿吽の呼吸になっているかは分からないですけど。

野澤 北野さんはすごく繊細な質問をするときに、タイミングをどう捉えていますか? 印象に残っているのは、木村一基九段が初めてタイトルを取った時のことです。取材陣から一通りの質問が終わった後に北野さんが「ご家族にはどう伝えますか?」と、まるで背中に手を添えるような優しい声で聞いたんです。その瞬間、木村九段は歯を食いしばり涙を堪えました。