盤上に命を懸けるプロ棋士たちの素顔を、誰よりも間近で目撃する者たちがいる。将棋記者とカメラマンだ。

 今年4月、ともに新刊を上梓したカメラマンの野澤亘伸氏(『師弟 棋士の見る夢』)と、朝日新聞記者の北野新太氏(『夜を戦う 純情順位戦』)。その両者による対談が「文春オンライン」で実現した。

野澤亘伸(撮影=北野新太)
北野新太(撮影=野澤亘伸)

 藤井聡太による八冠独占から約3年。果たして、絶対王者の牙城を崩す者は現れるのか。「ポスト藤井」の注目棋士たちを語り合う。(全3回の3回目/最初から読む

ADVERTISEMENT

 ◆◆◆

すでに風格を漂わせる藤本渚

野澤 “ポスト藤井”への関心が高まっていますが、最近注目している若手棋士はどなたでしょうか?

北野 今まで三段時代、あるいは四段昇段前に取材した人は4人しかいないのですが、その伊藤匠二冠、藤本渚七段、齊藤優希四段、岩村凛太朗四段のことがまず浮かびます。藤本さんが四段になった三段リーグ最終日に取材に行って、会見が終わった後、趣味だという音楽の話を藤本さんとしたんですね。ミスチルが好きだというので、ミスチルのどのあたりの曲が好きなんですか?と聞いたら『深海』というアルバムを挙げたんです。

『深海』は私の高校時代の1996年にリリースされたもので、少しダークな印象のあるコンセプトアルバムです。2005年生まれの17歳が「好き」と言うのを聞いて、あ、藤本さんは絶対強い棋士になると思ったんです(笑)。ちょうど『Number』の将棋特集の何冊目かに取りかかっている頃で、編集者さんと「若手でもうひとり誰かいませんか?」と相談を受けていた時でした。あの日の夜、電話したんですよ。「いました。藤本さんという17歳に取材をお願いしましょう」って(笑)。

野澤 私も藤本七段がデビューした年に取材しましたが、「自分はこれから将棋の道で生きていく」という真っ直ぐに前を見つめた姿が印象的でした。今期あたりにはタイトル戦に出てくる気がします。

北野 今、戦っている王位リーグがいきなり楽しみですよね。彼の棋風は藤井さん、伊藤さん、永瀬さんというトップクラスと違うじゃないですか。力戦を志向して、毎局ちょっと悪くしてしまうような局面を作りながらあれだけ勝つのは、ちょっと桁違いというか。大舞台に立ったときに、例えば藤井名人を相手にしても普通に負けていくようには思えなくて、何かを起こしてくれるような期待感があります。同じように、腕力のあるスタイルでたくさん勝っている服部慎一郎七段も、いつタイトル戦に出てくるか、という棋士ですね。