盤上に乱れたままの駒が残されていて…
北野 あの時のことは今でも時々思い出します。いい瞬間をみんなで共有したなあ、という記憶で、どこか励まされるような感覚があるんですね。『将棋世界』で書かせてもらった「木村の二十一秒」というドキュメントは、将棋記者としての自分のキャリアの中でも特別な原稿です。野澤さんの写真を使わせていただいたのも有り難かったです。
あの時、感想戦が始まってから両対局者が席を立って大盤解説場へ挨拶に行きましたよね。盤上に乱れたままの駒が残っていた。かなり珍しいことで、激闘のシリーズを象徴していたように見えました。私も一生懸命撮ったのですが、野澤さんが撮っておられたものを『将棋世界』に残すことができた。あれも嬉しかったですね。あれから7年になりますけど、あの王位戦のことは現代将棋においてとても大切なシーンになったと思います。
野澤 現場にいた誰もが、将棋界って素晴らしいと感じていましたよね。でもコロナ禍以降、雑誌媒体は取材・撮影する機会がずっと減ってしまいました。コロナ禍が終わってからも以前のように大勢の取材陣が入れる状況には戻らなかったですから。
今は取材陣が少なくなった
北野 個人的には、以前のように全ての報道陣を入れて取材をする態勢に戻せばいいのに、と思います。報道の数は目の前の出来事の大きさを計るバロメーターでもあるし、熱気から生み出されるものもあると思うので。
野澤 私がこれまでに強く記憶に残っているのは、佐々木勇気五段(当時)が藤井聡太四段(当時)の30連勝を阻んだ日の朝方です。対局相手に向けた佐々木五段の鬼気迫る眼光、その背後に藤井四段を狙うカメラマンたちがひしめいていた。対局者の殺気だけでなく、歴史的なシーンを捉えようとする報道陣の熱気も凄く、その雰囲気の中でこそ撮れた一枚でした。注目度の高い対局ほど制限が厳しい状況では、もうあのような写真は望めないです。
北野 そのような機会を失っていることは憂うべきことですね。
野澤 将棋界を長年撮られてきたカメラマンの弦巻勝さんと飲んだときに、やはり危惧されていました。将棋連盟は財産として残すべきものを失っていると。藤井六冠が出るタイトル戦でも、今は取材陣が少なくなりましたね。





