増田八段は自分の才能を信じている

北野 現在はA級にいる順位戦でもC級2組で苦労されていました。重要なところで星を取りこぼしていたような印象もあります。

野澤 A級棋士やタイトル経験者と対戦すると、互角かそれ以上の成績を残せるのに、妙に予選で負ける。これは敢えて言いますけど、増田八段は自分の才能を信じていると思うんです。勝負師として必要なことですが、それがいつも良い方に出るとは限らない。森下九段が「棋士はトップと最下位でも、100m走にしたら0.2秒程度の差しかない」と言うように、ほんの僅かでも気持ちが緩めば斬られてしまうのだと思います。

森下卓九段 師匠の故・花村元司九段がよく通った西日暮里の喫茶店にて ©︎野澤亘伸

北野 今回の『夜を戦う 純情順位戦』の中で書かせていただきましたが、個人的に増田さんの横顔でグッとくるのは、彼がアメリカのノンフィクションをたくさん読んでいる読書家であることです。デイヴィッド・ハルバースタムが好きなんですと明かされた時は、驚くと同時に嬉しかったです(笑)。1970年代のNBAについて書かれた『勝負の分かれ目』という作品があるのですが「最高です」と……。私が大学生の時にはすでに絶版で、古本屋で探し出して見つけたような本ですからね。

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 そして、彼は単に読書好きとして読んでいるのではなく、勝負に臨む上での教訓のようなものを学ぼうとしている。それで私が別の本もお勧めしたら実際に読んでくれたり。「あれはちょっと……北野さんは好きそうだなあと思いましたけど」と言うのも実に増田さんらしいというか(笑)。

順位戦を勝つことへの気持ちは別格

野澤 順位戦では今年もC級2組は最後まで目が離せませんでした。佐々木大地七段がついに昇級を果たしましたね。

北野 9期目のC2での昇級でした。

野澤 その間に8勝2敗が5回でしたか? タイトル戦の連続挑戦、年間最多勝と最多対局も達成している。以前に昇級を惜しくも逃したときに、本人から「他の棋戦で頑張ればいいんです」という言葉を聞いたことがありました。これは増田八段もC級2組のときに口にしたことがあります。でもその言葉の裏に、若い彼らの忸怩たる思いが滲んでいるのを感じました。棋士の本心として、順位戦を上がることへの気持ちは強いはずです。

北野 C級2組について言うと、五十数人が参加して3人しか上がれないわけですから、絶対的に険しいです。2敗したら難しくなります……と言いながらも、佐々木さんが今回上がったのも8勝2敗ですから、運命の妙としか言いようのないものもあるような気がしています。

野澤 これは師匠の深浦康市九段が指摘していたことですけど、ベテランと対戦するときに相手が昔から得意とする形で戦ってしまっている。作戦の立て方に問題があるから、星を落としてしまっているんじゃないかと。(つづく)

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