東急300系車両には猫の顔をデザインした「招き猫電車」が運行されており、写真撮影を目的に訪れる観光客も多い。小さな車両が住宅地の中を走る風景は、日本人にとっては日常の一部であるが、外国人にとっては「日本の生活文化」を感じられる風景として評価されている。

東急世田谷線の「招き猫電車」 筆者提供
「招き猫電車」 はつり革も招き猫デザインだ 筆者提供

 また、アニメ作品に登場した鉄道や駅を訪れる「聖地巡礼」も鉄道観光を後押ししている。東京・御茶ノ水の聖橋周辺では、JR中央線、総武線、東京メトロ丸ノ内線の3路線が立体的に交差する景色を見ることができる。

 もともとは鉄道写真の撮影地として知られていたが、映画『すずめの戸締まり』の影響もあり、海外の旅行サイトやSNSで紹介されるようになった。三色の電車が同時に見える都市景観は、巨大都市東京の鉄道網を象徴する風景として関心を集めている。

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聖橋から線路を眺める人々 筆者提供

 さらに、地方のローカル線も外国人観光客の人気を集めている。田園地帯や海岸線、山間部を走る鉄道は、日本の原風景を体験できる移動手段として評価されている。車窓から見える里山や漁村、棚田などの風景は、都市観光とは異なる魅力を持つ。とりわけ欧米の旅行者の間では、ゆっくりと景色を楽しみながら移動する旅行スタイルが支持されている。

鉄道会社も需要に対応、鉄道が「旅の目的」になる時代

 こうした需要を受け、鉄道会社もインバウンドを意識した列車の運行を進めている。阪急電鉄の「京とれいん 雅洛」は、京都の伝統文化を意識した内装が特徴で、車内空間そのものが観光体験となる。近鉄では「しまかぜ」「青の交響曲(シンフォニー)」など、快適性とデザイン性を重視した観光特急が人気を集めている。

「京とれいん 雅洛」公式サイトより

 小田急電鉄の「ロマンスカー」、東武鉄道の「スペーシアX」なども、車両デザインや車内空間そのものが観光資源として評価されている。JR九州の観光列車も、デザイン性の高さから海外での評価が高い。これらの列車では、「どこへ行くか」だけでなく「どの列車に乗るか」が旅行計画の一部となっている。

 鉄道会社は、多言語対応のきっぷ販売、無料Wi-Fi、外国人向け周遊パスなど、利用環境の整備も進めている。訪日客の増加に伴い、都市部だけでなく地方への旅行も広がっており、鉄道は広域移動を支えるインフラとして重要な役割を果たしている。

 日本人にとって鉄道は日常の移動手段であるが、外国人観光客にとっては日本文化を体験できる観光資源の一つである。時間通りに到着する正確さ、整然としたホーム、地域ごとに異なる車両デザインなどは、日本社会の特徴を象徴する要素として受け止められている。

 神社仏閣やテーマパークだけでなく、鉄道そのものを楽しむ旅行スタイルは今後さらに広がる可能性がある。アニメ作品やキャラクターとの相乗効果、ローカル線の風景、特徴ある車両デザインなど、日本の鉄道が持つ魅力は多様である。日本人にとっては見慣れた風景であっても、海外から見ると新鮮な観光体験となる場合も多い。

 外国人観光客が注目する「鉄道観光」は、日本の魅力を再発見する視点を提供しているとも言える。どの列車に乗り、どの風景を見るかという選択そのものが、旅の目的になりつつあるのである。

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