ヘイト対策を放置する国と自治体
クルドの子どもたちを攻撃の標的にした虚偽情報の投稿について、ヘイトスピーチに詳しい弁護士の神原元は「これが日本の子どもだったら大騒ぎになる。警察が捜査しないのはおかしい」と指摘した。法律で禁じられた名誉毀損に加え、盗撮を禁じた埼玉県の迷惑行為防止条例違反になる疑いがあるという。
ヘイト対策に取り組む弁護士の師岡康子は、人種差別的な表現自体を国が罰則付きで禁止する必要があると主張する。「ヘイトをする人たちは、女性やマイノリティーで立場が弱い対象を選んで徹底攻撃してくる。在留資格が不安定な人も少なくないクルドの人々、中でも最も弱い立場の女児が標的にされ、ひきょう以外の何ものでもない」と言う。
現行法制でも2016年に成立したヘイトスピーチ解消法がある。だが、人種差別やそれに基づくヘイトスピーチを「許されない」としたものの、罰則を設けていない。
川崎市は在日コリアン(韓国・朝鮮人)へのヘイトデモが激しくなったことから2019年にヘイトスピーチに刑事罰を科す全国初の条例を設けた。だが、埼玉県では、県に加え川口市など自治体も踏み込んだルールづくりに及び腰だ。埼玉県知事の大野元裕は24年11月の記者会見で罰則を伴うヘイトスピーチ禁止条例が必要ではと問われたのに対して「現時点で頭の中に条例制定はない」と答えた。
それどころか政治家や選挙の立候補者らが、排外的なメッセージを発することで注目を集めようとする動きが急拡大した。
2025年早春、埼玉県戸田市の市議会議員、河合ゆうすけが公園でクルドの小さな子どもたちが、笑顔でケーキを囲み、誕生日パーティを開いている動画をSNSに投稿し、「蕨市民公園で違法パーティ」と書き込んだ。子どもたちの顔には何のモザイクもかかっていなかった。直前の市議選で「あなたの部屋の隣にクルド人が住み始めても怖くないですか」と訴え、トップ当選した人物だった。
日本が加入する国連の人種差別撤廃条約では、人種差別的言動を犯罪として禁止し刑事罰を科すことを明記している。この条約が各国で守られているかをチェックしている人種差別撤廃委員会は2018年、日本についてこう指摘した。「インターネット及びメディアを通じたヘイトスピーチ並びに(政治家など)公人によるヘイトスピーチ及び差別的発言が継続している」。委員会はあわせて、罰則付きの包括的な差別禁止法をつくるよう勧告した。
師岡は「ヘイトスピーチを放置すれば深刻なヘイトクライム(憎悪犯罪)につながる」と警告する。大正時代、当時日本の植民地だった朝鮮人への差別が放置された状況は、関東大震災直後に「朝鮮人が暴動を計画している」「朝鮮人が井戸に毒を流した」などのデマやフェイクニュースを生み、これを信じこんだ人々が日本の各地で朝鮮人を虐殺した。