「森川って名前見るだけでイヤだよね」と耳にして「ぶん殴ってやろうか」と思った
「森川って名前見るだけでイヤだよね」
耳にした瞬間、脳みそが沸騰した。連載決定会議では、多数決で結果を出す。名前を見るだけでイヤだという人は、ネームを見ていないかもしれない。それは、スタートラインに立つこともできないということだ。
「ぶん殴ってやろうか」と思ったところで、我に返った。その発言をした人は、森川さんがそこにいることを知らない。ということは、本音を言っているということだ。
「そうか、これが正直な意見なんだな」
自分が置かれた状況を知った森川さんはネーム室に引き返して、筆を握った。
編集長からの「最後通牒」を受け取り、覚悟を決めた
気づけば、ネームを描き始めてから半年以上経っていた。森川さんは「講談社に住んでるようなもんでしたよ」と苦笑する。それでも、迷走が続く。どうにかして突破口を開こうと頼ったのは、ちばてつやの作品だった。
「編集者との打ち合わせはすでに行き詰っていました。それも仕方ないんですよ。担当者も30歳前後で、お互い未熟なんです。それなら、ほかのマンガを読んで研究したり、1本でも多く線を引いたりするしかない。僕はこの時、『もう、ちばさんに聞くしかない』と思っていました。でもちばさんに直接コンタクトを取る手段を持っていなかったから、ちばさんのマンガを読み込みながら、マンガがうまいってどういうことだろうって考えていました」
アシスタントの仕事を終えたら、講談社に戻る。寝落ちするまでネームを描く。ひと息つく時に、ちばてつやのマンガを読む。いつしか、それが日常になっていた。
講談社に「住み」始めて8カ月ほど経ったある日、週刊少年マガジンの編集長からオーダーが入った。
「森川さん、プロの世界を描いてください」
それまでの8カ月に及ぶ苦悩を見ていて、限界を感じたのかもしれない。ここで、「『あしたのジョー』と比べられるから、イヤです」と答えた森川さんに、編集長はこう告げた。
「そこで勝負してください。そうじゃないと連載は無理です」
最後通牒だった。3回打ち切りにあい、新作のネームはいつまでも完成しない。以前に「森川って名前見るだけでイヤだよね」と言われた時と同じように、自分の立ち位置を理解した森川さんは、静かに頷いた。
「僕、すごいドライなんですよ。だから編集長にここまで言われて、なにくそって燃えたということはありません。プロは依頼されたものを描かなきゃいけないんじゃなくて、描けなきゃいけないんです」
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