「結成当初から、たくさんの方々に支えられて走り抜けることができました」(三浦璃来)
「自分自身、特別な力を持っているわけではないんですけど、支えてくださる方がいっぱいいて、ここまで来ることができました」(木原龍一)
4月28日に行われた引退会見で、“りくりゅう”の2人は、支えてくれた人々への感謝の言葉を繰り返した。「文藝春秋」6月号(5月9日発売)では、長く2人に伴走し、金メダル獲得の瞬間にリンクサイドで抱き合って咽び泣いた、コーチのブルーノ・マルコット氏、トレーナーの渡部文緒氏、そして日本スケート連盟フィギュア強化部長の竹内洋輔氏の3人が「奇跡の金メダル」への道のりを振り返っている。
「大事な言葉をかけるのは僕じゃないな」
スポーツの世界では、トップアスリートであればあるほど、支える側にもプロフェッショナリズムが求められる。五輪であればなおさらだ。それが最も現れたのが、五輪のショートプログラム(SP)の失敗から、フリー(FS)へと至る時間だった。
トレーナーの渡部氏が、SPの後にケアを受けていた2人の姿を振り返る。
「気丈に振る舞っていた璃来ちゃんが、ケアを受けながら『渡部さん、なにか面白いこと言ってください』って言うんです。これだけのトップ選手になると、最後のピーキングはほぼメンタルで決まる。それは高橋(大輔)君の担当だった頃に学びました。僕はお笑い担当でもないので、YouTubeで『M-1グランプリ』で優勝した、たくろうの漫才を観ました。璃来ちゃん、めっちゃ笑ってましたね」
一方、木原は完全に落ち込んだ状態だった。渡部氏が続ける。
「『大事な言葉をかけるのは僕じゃないな』と判断しました。璃来ちゃんとコーチの信頼関係が彼を奮い立たせてくれると信じ、念のため『鼓舞する言葉』は準備していましたが吞み込んで、たわいもない話をしながらケアしました」
「泣くことが回復に繋がると信じました」
翌朝、木原は朝食を取りながら泣き、公式練習でも泣いていた。しかし、その姿にマルコット氏は安堵したという。
「もし、強がって『僕は大丈夫』なんて作り笑顔をしていたら、適切な対処ができません。自分の感情をさらけ出せるのは、周囲の信頼があり、強い人間ということ。泣くことが回復に繋がると信じました」
そして、数時間後、奇跡は起きた。逆転の金メダルはけっして偶然ではなかった。りくりゅう、そしてそれを支えた人々の努力が結実した必然だったのだ。
5月9日発売の月刊文藝春秋6月号、および月刊文藝春秋の電子版「文藝春秋PLUS」掲載の「なぜ3人の男たちが号泣したのか りくりゅう『奇跡の金』の軌跡」(5月8日先行公開)では、りくりゅうの2人が初めてペアを組んだ「運命の日」や、FSの演技中のエピソードなど、その7年間のドラマを3人が明かしている。

