罪なき人であっても、ひとたび逮捕されれば、否認をしていると長期間の身柄拘束が続く「人質司法」が問題にされて久しい。しかも依然としてひどい取り調べが放置されている。

 裁判のやり直しを求めようにも、検察は肝心の証拠を出さず、裁判官の当たり外れもあって、再審のハードルは依然として途方もなく高い。やっとのことで再審開始決定が出ても、検察側の不服申し立てで実際の開始は先送りに。「これはいかん、再審法を改正すべし」との声が高まっても、法務省は検察の権限を維持する法案をごり押ししようとするばかり。これに自民党内から批判が噴出し、法務省は3度にわたって修正。法案は予定より1カ月遅れでやっと了承されたものの、国会審議で野党側からさらなる修正を求められるのは必至だ。

 このように刑事司法に関する問題が相次ぎ、いつ誰が次の犠牲者になるか分からない日本。なんでそうなるのか、どうしたらいいのか、それを具体的かつ分かりやすく書いた本が出た。『おどろきの刑事司法 “犯罪者”の作り方』(講談社)だ。

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 著者は、村木厚子さん。厚生労働省局長時代の2009年、無関係の「郵便不正事件」で大阪地検に逮捕起訴され、無罪判決を勝ち取った後に職場復帰して、同省次官まで勤め上げた。

村木厚子さん ©︎鈴木七絵/文藝春秋

 今この本を出したのはなぜか。冤罪という人生の試練を乗り越えられた力の源泉はどこにあるのか。さらに法務省主導の審議会で一部とはいえ目的達成に導いた裏事情まで、村木さんに話を聞いた。(全3回の1回目/つづきを読む

聞き手・構成=江川紹子

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「自分は珍しい経験をした」と思っていた

――新しく出された本『おどろきの刑事司法』が評判になっています。無罪が確定した後、ご自身の体験をまとめた本『私は負けないー「郵便不正事件」はこうして作られた』(2013年、中央公論新社)を出されましたが、再び筆を執ったのはなぜですか。

村木厚子さん(以下、村木) 前著を出した頃、自分は希有な経験をしたんだと思っていました。でも、その後もいろんな問題のある出来事が起きています。プレサンス事件も大川原化工機事件も、組織で働く人が巻き込まれているんですね。

 役所を辞めてから、民間企業の人とのお付き合いも増える中で、「僕も取り調べを受けました」という人にずいぶん会いました。談合事件などでは、事業に関わった人をすべて網羅的に取り調べたりしますから。でも、会社の恥になるとか、いろんな噂を立てられるのを恐れるとかで、外には話していない人がこんなに多いのか、と分かりました。