廃用身(はいようしん)とは、麻痺などにより回復の見込みがない手脚のこと。原作は、外務省医務官を経て、現在も在宅訪問医として活躍する久坂部羊のデビュー作。強烈すぎる内容に「映画化、絶対不可能!」と言われた小説を、「いつか映画化したい」と20年以上思い続けてきた𠮷田光希監督が完成させた。

 老齢期医療の最前線で患者の幸福と医療の合理性を追い求めるあまり、危うい領域へと踏み込んでしまう医師・漆原糾を染谷将太、漆原に共鳴する編集者を、主演作『逆火』(25年)などで活躍する北村有起哉が演じている。

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想像を超える景色が見たくて映画を撮っている

𠮷田 じつは染谷くんとは知り合って長いんだよね。2012年のぴあフィルムフェスティバルの打ち上げの席が初対面だった……らしい。僕はすっかり忘れてたんだけど。

染谷 そのときは軽くご挨拶した程度でしたが、数年後に食事会で再会して、そこで初めてちゃんとお話しさせていただいた記憶があります。

𠮷田 染谷くんがブログで僕の『家族X』(10年)という映画を紹介してくれたことを知ってたので、その話をしたり。「映画、観てくれてるんだ」ってうれしかったんだよね。こっちも染谷くんの活躍はずっと追いかけてたから。

染谷 仕事でご一緒するのは今回が初めてでしたよね。

監督・𠮷田光希と主演・染谷将太 ©︎今井知佑/文藝春秋

𠮷田 正直に言うと、『廃用身』の脚本を執筆していた段階では、主演の漆原役を誰にオファーするかは決めていなかったんです。原作では35歳の若き医師で、麻痺などで回復の見込みがなくなった手脚を切断する「Aケア」という画期的な治療法を強力に推進する役どころ。40代や50代の熟練医師として描くほうがリアリティがあるのではないかとも思い、年齢は幅広く探そうと考えていました。

染谷 そうだったんですか。

𠮷田 ただ、「じゃあその設定に合う役者さんは誰だろう」と検討してるうちに、原作のイメージに囚われすぎている気がしてきたんです。思い入れのある原作だからこそ、「どう再現するのか」にこだわるのではなく、「映画という言語でこの物語をどう問い直すのか」を大切にすべきなんじゃないか。自分でも想像できない領域に踏み込んでみたい─そう考えたときに自然と浮かんだのが染谷くんでした。さっきも言ったように、染谷くんは自分の映画体験と地続きにいる役者さんなんです。想像を超えるには、そういう人と組むべきだと思いました。

染谷 ありがとうございます。

𠮷田 あと、ちょうど脚本開発をしていた時期に、僕、自転車で事故っちゃって肩を怪我したんですよ。そのとき初めて全身麻酔下での手術を経験したんだけど、執刀医が染谷くんにそっくりな人で。

染谷 えー!

𠮷田 そのイメージもちょっとはあったかもしれない(笑)。

染谷 医師といえば染谷だと。

𠮷田 それは半分冗談としても、手術で肩に金属を入れ、半年近くリハビリを余儀なくされたことで、身体を自由に動かせないもどかしさを体感できた。そのうえで撮影に向かうことができたのは、図らずもこの作品にプラスに働いたんじゃないかと思ってます。