「Aケア」が導入された社会は現実かSFか

染谷 登場人物の内面というより、シチュエーションを独特の比喩で演出することが多かった印象です。たとえば僕が編集者役の北村有起哉さんと向き合って対話するシーンは「卓球台を挟んでラリーするイメージで」と言われたし、漆原が報道陣に取り囲まれるシーンは、僕には「レッドカーペットだと思って歩いてきて」、報道陣役の方々には「SWAT隊員がショットガンを構えるみたいにカメラを向けてください」。漆原が壇上で患者さんたちに「Aケア」を説明するシーンは、「これはフェスです」と(笑)。

𠮷田 うん、そういうことはけっこう言ったかもしれない(笑)。今回、染谷くんをはじめすばらしい役者の方々が集まってくださって、それぞれ役をつくって現場に入ってくれました。クランクイン前のリハーサルでは、脚本にない患者さんのためのカンファレンスを、クリニックのキャストたちにアドリブで演じてもらう時間もあって。その時点でみなさんが役や作品テーマへの理解を深めてくれていることはわかっていたから、僕は内面や人物像を細かく修正するというよりは、動線として「どう撮るのがベストか」を考えることに徹しました。

©2025 N.R.E.

染谷 いま監督が言った撮影前にアドリブで行なわれたリハーサルでは、配布された患者さんの資料を読みながら、出演者全員が役に沿って意見を出してディスカッションしましたよね。すると、その後の撮影中も、「Aケア」が現実になったときのことをめぐって議論が飛び交ったりしたんですよ。僕自身、「自分や自分の家族だったらどうするか」とリアルに想像したし、その意味でもすごく思い出深い現場になりました。

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©2025 N.R.E.
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𠮷田 撮影中も議論が続いていたとは知らなかった!  「超高齢社会」ってキャッチーなテーマだし、トピックにもなりやすいけど、どこかで「まだ少し先の話」と受け止められている気もするんです。でも、日本はすでに2010年に超高齢化社会に突入している。『廃用身』も、近未来のセンセーショナルな出来事としてではなく、15年以上続いている日常を描くつもりで撮りました。その気配を感じ取って、自分のこととして考えてもらえたらと思います。

そめたに・しょうた 1992年、東京都生まれ。9歳で映画デビュー。映画『ヒミズ』(11年)で第68回ヴェネツィア国際映画祭のマルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)を受賞。ジャンルにとらわれることなく幅広く活躍している。近年の出演作に大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(25年)、Netflixドラマ「イクサガミ」(25年~)、映画『爆弾』(25年)、『果てしなきスカーレット』(25年)など。

よしだ・こうき 1980年、東京都生まれ。𠮷田恵輔監督の推薦で塚本晋也作品の現場を経験し、自主製作映画『症例X』(08年)で第30回ぴあフィルムフェスティバル(PFF)の審査員特別賞を受賞。さらに第61回ロカルノ国際映画祭新鋭監督コンペティション部門入選、『家族X』(10年)『三つの光』(17年)のベルリン国際映画祭をはじめとした国際映画祭での評価を通じ、世界で注目を集めている。

STORY

異人坂クリニックというデイケア施設で、廃用身を切断する画期的な治療法「Aケア」が行われていた。「憑き物がとれたように、身体も心も軽くなった」など、予想外の“好ましい副作用”の噂を聞きつけた編集者の矢倉俊太郎(北村有起哉)は、老年期医療の常識を揺るがす本を出版したいと院長の漆原(染谷将太)を口説く。ところが、Aケアに関する内部告発が週刊誌に流れ、さらにある患者宅で発生した衝撃の事件により、すべてが暗転していく。

 

STAFF & CAST

監督・脚本:𠮷田光希/原作:久坂部羊『廃用身』(幻冬舎文庫)/出演:染谷将太、北村有起哉、六平直政、瀧内公美/2026年/日本/125分/配給:アークエンタテインメント/©2025 N.R.E.

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