健康に良いのは「何歩」歩くことなのか? 認知症予防になるというのは本当なのか? 「文藝春秋」6月号掲載の「歩く」の最新研究から、一部紹介します。

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「歩く」ことが健康にいい影響を及ぼすことは、近年のさまざまな研究によってエビデンスが揃ってきている。

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 たとえば、2025年、シドニー大学の研究者らが学術誌『The Lancet Public Health』で発表した最新の調査結果によれば、「1日に7000歩歩く人は2000歩しか歩かない人と比べて、心血管疾患による死亡リスクが47%低下、認知症の発症リスクが38%低下など、主要な病気のリスクが大幅に下がる」という。

 高齢者の大きな関心事である認知症のリスクが「38%低下」と言われると、「すぐにでもウォーキングを始めよう」と思う人もいるのではないか。

 歩くことと認知症のリスクが下がることの医学的な因果関係は、実際のところ、どの程度わかっているのだろうか。東京大学大学院、新領域創成科学研究科で老化生命科学を研究する久恒辰博准教授に聞いた。

「記憶力や認知機能の低下に代表される脳の老化は、生活習慣の改善によって、ある程度抑えられることがわかってきました。歩くことが脳の老化予防につながることは間違いない。ただし、認知機能の向上に運動がどのように関与しているのか、その詳しい仕組みの解明はこれからです」(久恒氏)

写真はイメージ ©graphica/イメージマート

 とはいえ、今や、歩くこと(運動)は認知症予防対策の定番メニュー。久恒研究室でも、認知症の7割近くを占めるアルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)の予防につながる生活習慣として、ウォーキングなどの運動習慣や食事、睡眠、社会交流に着目し、研究を進めている。

 久恒准教授の専門は脳の海馬の研究である。記憶や学習を司る海馬は認知機能や感情に関係しているが、その海馬では、高齢になっても新しいニューロン(神経細胞)が生まれているという。

「年をとると脳の細胞は減る一方で、増えたり再生したりすることはないと、かつては考えられていました。しかし、大人になっても脳は成長し、修復する能力を保っているのです。今年2月に『Nature』で発表された研究論文にも、平均的な高齢者よりも認知機能が高く保たれている“スーパーシニア”の脳には、新生ニューロンの数が普通の高齢者の約2倍もあったことが報告されています」

久恒准教授(本人提供)

 つまり、高齢になっても新生ニューロンが次々と生まれる脳は認知症になりにくいということ。

 そして、新しいニューロンを増やす方法のひとつが「運動」だということも、マウスを使った動物実験では明らかになっているという。