女たちは中学生になると主に美しさによって「おひつじ」から「うお」までの12等級に分類され、「目録」に登載される。男たちは地位や財産による序列順に目録にアクセスし、気に入った女が中学を卒業すれば結婚できる――。
架空の世界ではある。しかしこれは一昔前、たとえば私の祖母が女学生だったような時代の暗喩ではない、と作品内にちりばめられた感染症対策やポケモンカードなどの細部ははっきり語りかけてくる。そしてとんでもない制度のもとに生きる女の不安や男の欺瞞は、私にとって見覚えのあるものだ。
中学生の有紗はそんな世界で、トップ一握りの女子たちが通う有名な学院に通う。校舎の窓はすべて遮光カーテンで覆われ、生徒たちにはカップケーキみたいな形の日傘が支給される。男たちが白い肌の女を求めるから。半年ごとに更新される目録で、「ふたご」以下になってしまうと退学になるから。父と二人暮らしの彼女は切り詰めた生活を送っていたが、ある時校外学習先で学院OGでアナウンサーの美優と出会い、彼女の夫である白井とも知り合う。彼らが暮す高級マンションに通うようになると、有紗はそれまで受け入れていた慎ましい生活を苦痛に感じることが増えていく。
男が女の人生を決定する世界で、女に求められるのは見かけの美しさを磨くこと、あとは男を脅かさない「ほどほど」の勉強。女には結婚の拒否権すらなく、稀に拒否する者がいれば「へびつかい」と呼ばれ目録から削除される。上位の女たちの葛藤や努力が描かれ、男たちの格差が描かれる一方、「うお」や「へびつかい」をあえて描かない構造自体が、無視できるほど価値の小さい者への想像を逆に掻き立てる。強大な決定権を当然の理として行使し、世界に疑問を持たない男たちの中で、白井は「昔から男性が嫌い」で「女性の手助けをするために」美容外科医となった稀有な人ではある。ただし、人の代替可能性をぎりぎりのところで否定する白井医師の態度が希望のように読めるからこそ、結末はとても厳しく怖いものに思えた。
女たちに選挙権はなく、夫婦の財産は全て男に帰属する。理不尽な息苦しさに気が滅入る一方、実を言うとほんの少し、羨ましく思う瞬間もあった。彼女たちが目録の中で「おひつじ」や「うお」に堂々と分類されるのと似た序列を、背中に巧妙につけられる不快を知っているからだ。がむしゃらに美容に手を伸ばし、男の金をあてにすれば、オンナを使う卑怯さを責められ、そこから降りれば、オンナとして終わりだと罵られる。自分が学院の彼女たちではないことに安堵しつつ、せめてどちらかに逃げ込める気楽さを想像してしまうのは正当な感情ではないが、表立った目録のないこの世界もまた、息苦しい場所ではあるのだ。
とおのはるか/1991年、神奈川県藤沢市生まれ。慶應義塾大学法学部卒。2019年、『改良』で第56回文藝賞を受賞しデビュー。20年、『破局』で芥川賞受賞。他の著書に『教育』『浮遊』。
すずきすずみ/1983年生まれ。東京都出身。作家。著書に『非・絶滅男女図鑑』『ギフテッド』『不倫論』『典雅な調べに色は娘』。
