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本当に何もできないベテランというのは実は少ない

 仕事の負担が軽くなる分、昔みたいに他社の炎上プロジェクトを引き受けてきて馬車馬のようにこなすという仕事がなくなって、いろんなものを見渡せるようになりました。もちろん、利幅は大きいけどタイトな仕事も中にはあるようで、見積もりを間違えて死んだような魚の目になっている投資先も中にはあります。頑張って乗り越えていってほしい。また、いろんな組織をみていると男女を問わず中年に差し掛かった経験豊富な人が、若い人たちの馬力に押されて脇に追いやられているケースを多く見るようになり、これは可哀想だなと思うのです。

 40代から50代の仕事のキャリアというのは綺麗事を言うにはしんどい状況にあって、家族を抱え、親の介護がある人もいたり、ご自身が病気がちになったりして、若いころと同じようにバリバリ働けない状況でも若い人たちと同じような成果を求められるようになります。コンテンツ開発でも、名前が実績と紐づいて「あの人と仕事したい」というようなご指名がある場合ばかりではなく、知人友人や元取引先などのツテを使って仕事を取ってくるタイプの人は、契約期間が終わればただの人になって生活が安定しないので、どうしても精神的にも追い詰められるようなのです。大手企業にいるから、どこかの子会社だからと安閑としていられる時代もまた終わってしまい、その人が何をしているのかが厳しく問われる時代になると、どの年齢でも仕事ぶりが依頼の数やギャラに直結するようになるわけです。

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 で、こういう「既存の仕事の枠組みからこぼれていく人」というのは一定のパターンがあるように思えるのですが、本当に何もできないベテランというのは実は少なく、そういう40代50代の人たちに働いてもらうやり方ってのは、雇うチームのリーダーの側にコツがあったり、働くベテランの側も一定の意識があると実にうまくいくことが分かってきたのです。

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ベテランの扱いがうまい桜井君(仮名)の指示の仕方

 そのコツとは、先にも述べた、「仕事の見積もり」をしっかりと作ること、です。たまに「仕事のできないおっさんだな」と烙印を押されて流れてくる中年男性である小林さん(仮名)がやってくるんですけど、まあ確かに会って話してみるとパッとしない。大丈夫なのかなと思うんですけど、こういうおっさんの扱いがうまいマネージャーの桜井君(仮名)というのがおりまして、彼がどうベテランを扱っているのかな、と思って興味深くみていると、聞いているこちらが怖いぐらいに褒めまくったうえで、仕事を任せておるわけです。褒めてから仕事の段取りを説明すると、死んだような魚の目から、ちょっとした鮮魚にまで中年でも戻るのを間近で見て少し感動をしました。小林さんもいい奴だからってのはあるんでしょうが。

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 そして「まずは、できるところまでやっておいてください」というような、曖昧な指示をしない。「小林さんならお任せで充分にできると思うので、今週中にこことここにアポを取ってヒヤリングしてきた内容をまず概要に書き下ろしてください。そこから業界データとの比較で利益水準との乖離を見てから、業務分析にとりかかれるようなシートを〇日までに仕上げていただきたいのです」とレポートの雛形まで用意して、最後に「分からなければ、昼でも夜でも遠慮なくメッセンジャーに質問投げておいてください、必ず返答しますから」とフォローの約束までしている。なるほどねえ。